2020年10月22日

「あるキング」伊坂幸太郎

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弱小プロ野球チーム仙醍キングスのファンである山田亮、桐子夫婦。
生まれた男の子を王求(おうく)と名付け、野球の英才教育を施します。
毎日がひたすら野球です。
その甲斐あって王求は才能を伸ばし、12歳で現役プロ投手からホームランを打つほどの怪物に育ちます。
このまま順当にいけば間違いなくプロ入りですが、人生そう簡単なものではありません。
さて、王求の数奇な人生は・・・・。
いままでの伊坂作品とはちょっと異質です。
王求という少年が淡々と野球に打ち込む姿を、これまた淡々と描いています。
ただやはり伊坂幸太郎、その内容は一筋縄ではありません。
なのですが、これはちょっとわかりづらいですね。
ストーリーではなく作者の意図が。
ご本人もあとがきに書いておられるのですが、「自分の好きなように書く」というのが目的だったとのこと。
シェークスピアの「マクベス」からの引用を多用しておられます。
おそらく作者は今か昔かはわかりませんが、「マクベス」に影響を受けられたのでしょう。
それはいいのですが、ちょっとそれにこだわり過ぎられたのではないかという気がします。
「Fair is foul」、フェアはファウル、ファウルはフェア。
これ野球用語にも当てはまりますので、ここから野球選手の物語ということで発想を得られたのかなと。
「自分の好きなように書く」ということで書かれたわけで、読者がどうこうべきではないのかもしれませんが。
ただ読み終えて、「で、なんなの?」という感想です。
実験作ですが成功作ではないですね。
ただ伊坂幸太郎らしさは文章からじゅうぶんに味わえます。
ラベル:小説
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2020年10月09日

「恋の舞台はお屋敷で」伊東悠香

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セクハラ上司と喧嘩をして会社を辞めた倉田由良(ユラ)。
バイト先のメイド喫茶の店長に住み込みの専属メイドの仕事を依頼されます。
金持ちのそのお屋敷に行ってみますと、主人はイケメンで年下のモデル、シュウでした。
しかも先日チャラい男にナンパされているところを助けてくれた男性。
お屋敷で二人きりの日々が始まるのですが・・・・。
いいですね、金持ち、お屋敷、イケメンモデル。
そこに住み込みで働くという。
妄想女子の憧れを突いています。(笑)
もちろんそれだけの単純な話ではなく、実は二人には過去に接点があったという設定があり、これがまあなんとか主人公とシュウを結びつける説得力となっています。
ただ以前に読んだ作品でもそうなんですけど、作者の大雑把なところがここでも発揮されており、例えば一時期同居することになるシュウの親友のカオリ。
男性モデルなのですが最初は女装で登場します。
ユラは女性だと思っていたのに実は男性と聞いてびっくり。
いや、身長180cm以上の女(女装)が表れて、それを素直に信じるかと。
あとの説明によると、なんだか女性の丸みや柔らかさを出すためシリコンの衣装を身に着けていたとか。
180cmの男性がそんなの身に着けたらなおさら体がでかくなって、どう見ても女じゃないだろうと。(笑)
なにより声はどうなんだと。
そのあたりの説明は一切ありません。
で、ユラがシュウに冷たくされて屋敷を飛び出すシーンがあるんですね。
ユラはどうしたか。
なんと屋敷を飛び出してそのままパリに行くんです。
嘘やろと。(笑)
東京から大阪に行くとかならまだしも。
もうね、ブッ飛んでます。
ですが力業で話をねじ伏せます。
クールなキャラのシュウも見違えるようにエロエロな男になります。
もうほんと、ハッピーなお話です。
ユラの天然キャラはよかったですね。
これがこの作品の魅力かと。 
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2020年09月14日

「磁極反転の日」伊与原新

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東京の夜空に真っ赤なオーロラが。
いったいなにが起こっているのか。
なんと地球のN極とS極が反転し始めているのです。
日々磁気が弱まっていくため遮られることのない宇宙線が降り注ぎ、人々は体にどのような影響があるのかと不安を募らせます。
携帯電話もつながらない事態が増え、電車の交通システムなどにも不具合が発生し始めます。
そして10月の東京に雪が降るような寒冷化。
そんな中、都内の病院から次々と妊婦が失踪しているという話も出始めて・・・・。
地球のN極とS極がひっくり返るという荒唐無稽な設定のSF小説です。
と思ったら荒唐無稽でもなんでもなく、実際過去に何度も磁極反転という現象は起こっているのですね。
初めて知りました。
そのようなことになったとき、我々人類はどのように反応し、対応するのか。
そして自然や人間の体にどのような影響を与えるのか。
この小説はもちろんフィクションですが、書かれていることについては実際に起きる可能性が指摘されていることと専門家でもある作者はあとがきに書いておられます。
磁気というのは空気と同じように普段意識することはないのですが、この地球上で生物が生きていくためには必須であるということも解説に書かれています
浅田柊という女性ライターを主人公にし、地磁気問題を追う中で妊婦失踪という事件にも出くわす。
SF小説パニック小説にミステリーの要素も加えられて、読者の興味を引っ張ります。
個人的には恋愛の要素を盛り込まなかったこともよかったですね。
こういうのって主人公の言動に最初は反発していた人物が登場して、しかし徐々にお互い理解して惹かれあってみたいな設定を盛り込みがちです。
そんなクサイ話がなかったのがいい。
パニック小説としてもこのような状況で怪しげな団体が登場するのはパターンではありますが、変なリーダーに洗脳される人たちがいたり妊婦を絡ませているのが庶民の弱みを上手く突いています。
妊婦はお腹の赤ちゃんのことを考えると理性よりも感情に走るかもしれない。
まあそんなこんなで、なるほどと思えるシミュレーション小説でもありますね。
ラベル:小説
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2020年08月21日

「乙女のままじゃいられない!」石田累

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坂谷由南は少女漫画家。
昔はヒット作を出して一世を風靡したものの、いまはやや落ち目。
「少女漫画の限界は、べろ入れなしのキスまでです!」というポリシーを持っているのですが、そのせいか作風が時代に合わなくなっているようです。
ある日、漫画誌の企画で読者のラブロマンスを漫画にというオークションの企画があり、名乗りを上げたのが現在飛ぶ鳥落とす勢いのIT企業社長。
5000万円もの大金でその権利を買い取ります。
実はその社長というのが過去に由南の人生に汚点を付けた男、篠原柊哉でした。
柊哉は「キスシーンは3回以上、ベッドシーンは最低でも2回入れること」という条件を出します。
断わったものの話はどんどんと進んでしまい、由南は描かざるを得なくなります。
しかしネーム(下書き前のラフな原稿)を描いても描いても柊哉は納得せず、ひたすらボツ。
やがて「大人の恋愛を教えてやる」と言い出して・・・・。
いやあ、なかなか読ませられましたね。
感動もしました。
エッチがウリのこのエタニティシリーズなんですが、エッチ度は低めです。
後半にちょこっとあるくらい。
その分というわけではありませんが、なかなかしっかりとストーリーが読ませます。
由南が最後までひたすらトラウマを引きずっているのがいい。
これ最初からいきなり手のひら返したように柊哉になびいてしまっては興ざめです。
疑心暗鬼ながらもだんだんと由南の心がほどけていくのがよかった。
満足の読後感でした。
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2020年08月10日

「女たちよ!」伊丹十三

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「ヨーロッパ退屈日記」でエッセイストとしても鮮烈に才能を発揮した著者。
この本はエッセイ第2弾ということになります。
内容としましては前作と大きく違うわけではなく。
時代のせいもあるでしょう、まだ海外の事情について何もしらない一般の日本人を啓蒙(?)しておられます。
本物はそうじゃないんだよ、本物というのはこういうものなんだよ、と。
ただ今回はけっこう食べ物についての記述が多かったですね。
さすが食通の著者です。
このような知識やこだわりが後に映画「たんぽぽ」という名作につながるのだなぁと思いました。
で、なんでタイトルが「女たちよ!」なのかと。
これ、うるさい女性がケチつけてきそうですよね。(笑)
喧嘩売っとんのかと。
決して女性に物申すという内容ではないのですが、時代もありましてそういう内容もあるにはあります。
でもむしろ女性たちに対して目覚めよというメッセージがあります。(あるかな?)
本書で著者は偽物を否定し、本物を知れと主張しておられます。
これは前作から一貫していますね。
著者のこだわりといいますかダンディズムといいますか。
当時このようなエッセイは画期的だったようですが、先見の明はさすがだと思います。
文体にしろ内容にしろ。
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