2010年09月21日

「魚舟・獣舟」上田早夕里

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久しぶりにこってりとしたSF小説を読みました。

表題作の「魚舟・獣舟」です。

時代は陸地の大半が水没した近未来を思わせる世界。

海岸の浅瀬には、かつて大都市の一部だった高層建築物のなれの果てに海草やフジツボがびっしりと覆った礁があります。

人々は海の上で暮らす海上民とわずかな陸の上で暮らす陸上民に分かれています。

海の上で暮らす海上民は「魚舟」という異形な生物の上で生活しているのです。

一族の女は必ず双子を産みます。

ひとりは普通の人間、そしてもう一人は魚の形で産まれてくるのです。

魚の形で生まれた子供は海に放たれます。

それが成長し、もう一人の兄弟姉妹の舟へ戻ってくるのです。

そのときに<操舵者>と<舟>の関係を結ぶのだと。

それでは「獣舟」というのは何か。

なんらかの事情で<操舵者>を持たなかった魚舟が、成長しきった後、陸へ上がるようになったもののことです。

主人公は海上民ですが、陸上民に移住手続きをし、現在は獣舟が陸に上がってくるのを阻止する仕事に就いています。

獣舟が陸に上がってくると陸の資源を食い荒らすため、それを殺してしまうのです。

主人公と幼馴染みの美緒は子供の頃、自分に近づいてきた魚舟を主人公と一緒に虐待したことがあります。

もちろん自分の双子が戻ってきたなどという事情も知らずに。

美緒と結ばれなかったその魚舟は、獣舟として陸に上がってきます。

そうなると主人公の手で殺されることになるのです。

それを阻止するために美緒は主人公の管轄である立ち入り禁止区域に潜入するのですが・・・・。

小説というのはホラ話ですが、特にSF小説なんてその最たるものでしょう。

この場合肝心なのは、いかにホラを当たり前のように貫くかなんですよね。

要は設定がきっちりしているかどうか。

他の作品もそうなのですが、この作者のすごいところは堂々と大ボラを貫き通しているということ。(笑)

世界観がすごくきっちりと設定されているのです。

人間が魚舟という魚(?)の上で生活しているなんて奇想天外ですが、それをごく当たり前の顔してしゃあしゃあと書いておられる。

そんな設定で読者を引き込んでいくその力量は素晴らしい。

濃密な短編です。

その他、「くさびらの道」、書き下ろしの「小鳥の墓」など、どれも人間の業の哀しさを描いた秀作です。

ラベル:小説
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2009年08月04日

「魚柄の料理帖 人生、楽しく食べること」魚柄仁之助

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いかに今あるもので安上がりに美味しく料理を作るか。

そんなコツを紹介しておられるのがこの本です。

来客があってもわざわざ高級な素材を買ってきてなんてとんでもない。

買ってくるにしてもグラム○十円のトンコマやすじ肉など。

これをいかに美味しく料理するかなんですね。

そして食材は決して無駄にしない。

この本を読んで「そうそう」なんて共感できる人はそこそこの世代の人かも。

自分で貧乏な自炊生活をした人もいるでしょうし、決して裕福とはいえない我が家の台所から母親が美味しい料理を食卓に出してくれた記憶もありましょう。

副題に「人生、楽しく食べること」とあります。

そうなんですよね。

安い素材でも工夫して料理し、みんなで食べれば美味しいのです。

これを参考に私もいろいろと安上がりのおかずを作ってみたいと思います。

ラベル:グルメ本
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2009年07月16日

「パリの調理場は戦場だった」宇田川悟

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ノンフィクション風のフィクションです。

まだ現在のように日本にフランス料理が普及していなかった60年代後半から70年代前半、本場のフランス料理を学ぼうと何人もの若者がフランスを目指しました。

海外旅行さえ簡単には行けないような時代です。

それこそ二度と日本には帰れないのではないかとの思いさえ抱いて。

そんな連中が当時のフランスでどのような料理人修行をしたのか。

3人の若者にスポットを当て、その様子が描かれています。

当時のフランス料理事情や日本人が本場フランスの厨房で働くことの困難さはよく伝わりますが、冒頭に書いたように「ノンフィクション風のフィクション」であるがゆえに実在の人物が登場するリアルティによる迫力はなく、かといって小説として読むには物語りにドラマや深みが感じられません。

あえて著者はそのどちらも意図的に避けたのではないかという気もしますが。

実在する誰それの半生記というわけではなく、よけいなエピソードでドラマチックに作り上げた小説でもなく、淡々と当時の事情を物語風にまとめようと。

先人の苦労や時代を知るという意味ではいい1冊ではないでしょうか。

ラベル:グルメ本
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2009年02月14日

「ニッポン食いしんぼ列伝」宇田川悟

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フランス料理についての著書を何冊も出しておられる宇田川悟氏によるインタビュー集です。

登場するのは、田中康夫、蜷川幸雄、小林康夫、吉岡治、加藤登紀子、荻野アンナ、三国連太郎、立花隆、楳図かずお東海林さだお、磯村尚徳、荒木経惟、三田佳子、村松友視、猪瀬直樹、石津謙介村上龍妹尾河童

本の帯には「超新視点の食文化論誕生!」とありますが、別に目新しい視点でもなんでもありません。

それぞれの登場人物が自分の体験談を語っているだけです。

いろんな人の体験や考えを読めるのは貴重だと思いますが。

ラベル:グルメ本
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