2020年04月09日

「はたらくわたし」岸本葉子

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『働く意味って、何だろう。何のために、働くのだろう。』
そんなことは考えないで働き始めたという著者。
でも学生時代にそんなことを真剣に考える人なんてほとんどいないんじゃないですかね。
夢を抱いて就職する人たちは大勢いても。
たいがい就職して「こりゃ学生のときのようにお気楽に過ごせる世界じゃないな」と気付いたり、「思っていたのと全然違う。もっと華やかな世界を思っていたのに」とか。
『楽しくなければ仕事でない、という、うたい文句を聞くことがあります。私はそうは思いません。』と著者は書いておられます。
私もまったくその通りだと思います。
『楽しくなければ仕事でない』なんてのは理想論です。
毎日仕事していて楽しくて仕方がないなんて人は、よほどラクして濡れ手に粟で稼ぎまくり笑いが止まらない人か、頭の中がお花畑の人でしょう。
明日のことを考えたら眠れなかったり、胃が痛くなったり。
こんなことをあと何十年も続けていかないといけないのかと鬱になったり。
今日辞めよう、明日辞めようと、ひたすら思い続けたり。
そんなのが現実でしょう。
とにかく働いてお金を稼ぐというのは大変なことです。
しかしまったく嫌なことばかりではなく、もちろん喜びもあります。
著者は全力を尽くした仕事をして『ああ、この仕事をしていてよかった、と心から感じる瞬間がある。』とも書いておられます。
ここなんでしょうね。
この喜びがあればある程度の辛さは我慢できる。
なにもなければ、こんな仕事やってられるかとなる。
感じ方は人それぞれでしょうけど。
さて、著者はエッセイスト。
テレビ出演や講演などもしておられます。
なので物書きであり、メディアへの露出もあるお仕事の人です。
そんな著者の生活が日記形式で語られています。
生真面目な著者の性格が知れます。
私などはまったくその通りだと思いながら読みましたね。
多数の著作があり名も知られた人ではありますが、驕ることなくつねに自身を省みておられます。
このあたりがもう30年以上もこの世界でやってこられた理由のひとつではないでしょうか。
このような仕事を目指しておられる方ならご一読を。
しかしタイトルが「はたらくわたし」とひらがななのが微笑ましく著者らしいですね。
これが「働く私」だと硬くて台無しです。
ラベル:エッセイ
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2020年03月10日

「本棚探偵 最後の挨拶」喜国雅彦

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シリーズ第4弾。
今回も古本を求めて東へ西へ、あるいは他人の蔵書を整理するために奔走しておられます。
いやまあ古本マニアというのは恐ろしい。
例えば日下三蔵氏の年末大片付けの章では、“部屋”ではなく“家”が本で埋まってしまっています。
まともに寝るスペースさえなく、本の隙間でどうにか寝ているというありさま。
いくつか写真が掲載されていますが、そりゃもう凄まじい。
そんな日下氏には、なぜ何冊も何冊も同じ本を買ってしまうのか訊かれたときの答えに「売っていたからです」という名セリフがあります。
何者をも寄せ付けない有無を言わせない至高の一言ですね。(笑)
ちなみに著者は本棚まで手作りしてきっちりと整理しないと気が済まないタイプのようですが。
今回のメイン企画ともいえるのが、講談社のPR誌である「IN★POCKET」に連載された綾辻行人氏の「暗黒館の殺人」という作品を製本して私家版を作るという話。
これも写真入りで数章にわたってその過程を紹介しておられます。
本棚といい製本といい、凝るタイプなんですよねぇ。
今回でシリーズはいちおう完結のようです。
本作が第68回日本推理作家協会賞<評論その他の部門>を受賞されたということでめでたしめでたし。
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2020年03月06日

「化学探偵Mr.キュリー3」喜多喜久

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シリーズ第3弾。
短編4編。
呪いの藁人形がベランダに投げ込まれるたびに体調を崩す大学院生。
やはりこれは藁人形の呪いなのか、犯人は誰なのか・・・・。(化学探偵と呪いの藁人形)
深夜ガスマスクをつけて大学の実験室でなにやら実験している大学生。
近々外国の国王が日本を訪れ、この大学の施設を見学する予定です。
もしかしてテロ・・・・。(化学探偵と真夜中の住人)
癌を患った犬を救いたい一心で、治療薬を開発しようとする小学生。
そんな小学生を襲い薬を奪ったのは・・・・。(化学探偵と化学少年の奮闘)
サークルの飲み会で自慢の鍋を振る舞ったものの、皆が意識朦朧となる事態に。
鍋には毒が盛られていたのか・・・・。(化学探偵と見えない毒)
大学を舞台に起こるさまざまな事件。
どれも化学的な原因が盛り込まれています。
なのでそれを解決するのが四宮大学理学部化学科の准教授Mr.キュリーこと沖野春彦。
そしていつもそんな事件を沖野のもとに持ち込むのが庶務課に勤める新人職員の七瀬舞衣。
迷コンビです。
マンネリではあります。
探偵とそれをアシストする素人の女性助手。
パターンですよね。
まあこの作品の場合作者が薬学の専門家ということもあって、その知識を生かした話作りが個性と言えます。
ですが内容的には特にどうということもなく別にもう次作は読まなくてもいいかなとも思うのですが、つい読んでしまうのは沖野と七瀬の迷コンビの魅力のせいでしょうか。
この巻では沖野が最後に七瀬に対して告白めいたセリフを口にしたりしていますしね。
今後も二人の成り行きを見守ることにしましょうか・・・・。(笑)
ラベル:小説
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2020年01月02日

「宇喜多の捨て嫁」木下昌輝

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戦国大名・宇喜多直家。
自身の出世のためなら平気で娘の嫁ぎ先を滅ぼし、義父の首さえも切り落とします。
そんな宇喜多直家の半生とはどのようなものだったのか・・・・。
於葉は直家の四女。
後藤勝基に嫁ぐのですが、なんと祝言の場にて直家が浦上家に謀反を起こしたと聞き、血の気が引きます。
浦上松之丞は於葉の姉である小梅の婿です。
その小梅は松之丞に殉じ、自害したとのこと。
その宇喜多の軍勢はいよいよ後藤家にも押し寄せてきます。
於葉は後藤家の嫁として、宇喜多家と戦い後藤家に殉ずることを決意します・・・・。
表題作他5編を収録した連作短編集、というよりは、私は長編として読みましたけどね。
ただそのように読むと時代が前後していたりしてちょっとややこしいのですが。
視点を変えていろんな角度から直家を、出来事を描いています。
宇喜多直家は『尻はす』という病を患っており、体中の古傷から血と膿が大量に滲み出る奇病です。
生きながら体を腐らせていく直家が臥せっている部屋には、腐臭がこもっています。
この腐臭がなんとも全編に漂っているような気がして、非常に雰囲気が重い。
そして直家の手段を選ばない非道っぷりが輪をかけてその雰囲気を強調します。
ですが、ちゃんと直家の内面も描かれており、そのような業を背負った悲しさ寂しさのようなものも感じさせます。
この作品は『第2回高校生直木賞』を受賞しています。
これは直近1年間の直木賞候補作の中から選ばれた5作品について選考に応募した全国の高校が校内で予選会を行い、全国大会として代表が集まった本選会で議論し受賞作を選ぶというものです。
この回の候補作は本作の他、「サラバ」西加奈子、「悟浄出立」万城目学、「本屋さんのダイアナ」柚木麻子、「満願」米澤穂信。
高校生がこれらの作家・作品の中から本作を選んだというのがすごい。
まあ高校生といいましても私ごときなど及ぶべくもない読み巧者な人たちでしょうけど。
作者にとってはこれがデビュー作。
これまたすごい。
ラベル:時代小説
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2019年09月12日

「ラブホテル進化論」金益見

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電車である情報誌の中吊り広告に「ラブホ特集!」という見出しを見かけた著者。
それをきっかけに当時大学生だった著者は「カップルの空間を考察する」と題し、ラブホテルをテーマにした卒業論文を書こうと決めます。
井上章一氏にはつまらなかったと酷評されたそうですが。(笑)
その後大学院に進んだ後もラブホテルを研究し続けます・・・・。
なかなか興味深い研究です。
私が知らないだけかもしれませんが、ここまで真摯にラブホテルを研究、発表した人はいないのでは。
あちこちのラブホに行ってああだこうだという自称評論家はいますけども。
ラブホテルの始まりから、それぞれの時代を背景にしてどのように変遷してきたか。
外観、アイテム、ネーミング。
利用者の意識の変化。
経営者や設計士、デザイナーなどにもインタビューを試みておられます。
まさしく進化論ですね。
今後もどのように進化していくのか。
これからも研究を続けていかれますことを。
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