2016年06月02日

「晴天の迷いクジラ」窪美澄

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デザイン会社に勤める由人は24歳。

といっても古ぼけた雑居ビルにある、48歳の女社長の野乃花を含め社員8人の小さな会社です。

しょっちゅうミスをやらかして社長から罵倒される毎日。

どうにか辞めずに耐えているのはデザインが好きだし、東京にはミカという彼女がいるから。

いまさら田舎に戻る気はありません。

ですが彼女にもふられ、ついに鬱病になります。

やがて会社は倒産することになり、由人は野乃花の自殺寸前に出くわします。

それを止めさせ、せめてその前にとニュースで聞いた湾に迷い込んだクジラを見に行こうとなります。

野乃花の故郷である半島に向かう由人と野乃花。

途中でやはり生きることに疲れた女子高生、正子を拾います。

それぞれ希望を失くした3人は湾に迷い込んだクジラを見てなにを思ったのか・・・・。

第1章では由人、第2章では野乃花、第3章では正子。

それぞれをメインにして描かれています。

あたりまえのことなんですけど、それぞれに人生はあるわけで。

それも誰もが輝く毎日を送っているわけではありません。

いや、そんな毎日を過ごしている人なんてほとんどいないでしょう。

ほんと毎日ってつらいですよね。(笑)

私はそう感じています。

第4章では話のまとめに入るわけですが、湾に迷い込んだクジラを目の当たりにし、地元の人たちに触れ、絶望を抱えた3人に陽が当たりじわじわと氷が解けていくような・・・・そんな印象を受けました。

絶望と希望、生の輝き。

つらくてもやっぱり・・・・がんばって生きていきませんと。

なかなか読み応えのある小説でした。

ラベル:小説
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2015年06月23日

「文士の魂・文士の生魑魅」車谷長吉

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小説を書く人のことを作家や小説家という以外に文士という呼び方をすることがありますけども、そのような呼び方がふさわしい人はそうそういません。

車谷長吉という人は数少ない文士だったと思います。

そんな著者は今までどのような小説を読んできたのか。

どのような文士を評価したのか。

たいへん興味深いところです。

この本ではいろんなジャンルからそれぞれ数冊を取り上げ、その作品を初めて読んだときの自身の境遇や作品から受けた印象などを述べておられます。

といっても本屋大賞系のような作品はもちろん皆無ですが。

いかにも著者らしい選択と評価です。

しかしお亡くなりになったのはたいへん残念。

またひとり文士がいなくなってしまいました。

ラベル:書評・作家
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2015年01月11日

「限界集落株式会社」黒野伸一

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勤めていたIT企業に辞表を叩きつけ、自分で事業を起こす前に少しのんびりしようと祖父が住んでいた田舎にやってきた多岐川優。

しかしそこは限界集落といわれる過疎・高齢化の村でした。

村の人たちと馴染んでいくうちに、優は農業経営を立て直し村おこしすることを決意します。

経営のコンサルタントとしての手腕はあるものの、農業の経験はまったくありません。

そんな優の大胆な改革に村の人たちは拒否反応を示します。

はたして優は村を立て直すことができるのか・・・・。

地方の過疎、高齢化、農業離れといった社会問題を取り上げ、エンターテイメントに仕上げた作品です。

あらすじとしてはけっこうお決まりのパターンではあります。

祖父の地元とはいえ都会からやってきた優の口出しに反対する村人たち。

その中のひとりが大内美穂です。

敵意をむき出しにして優に反発する美穂ですが、やがて優の考えに賛同し、さまざまな障害を乗り越え、一緒に村を立て直していくことになります。

都会から就農研修に来た3人の若者たちや、美穂の兄の正登、そして気のいい老婆たちなどの脇役もうまく配置されています。

恋愛も盛り込まれて。

このままでは消滅するしかない寒村がだんだんと栄えていく過程は読んでいて気持ちいい。

かといってスムーズにいくわけでもなくピンチがあったりして。

ストレートに楽しめるエンターテイメント小説でした。

ラベル:小説
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2014年09月03日

「食い意地クン」久住昌之

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著者は「孤独のグルメ」の原作者です。

出版されたのはもう何年も前で根強いファンに支持されてきた作品ですが、最近ドラマ化もされ広く知られることとなりました。

ドラマ中ではありませんが原作者も出演しておられますね。

さて、そんな著者の食エッセイ。

といっても美食などという言葉とは程遠く、身近な食べ物に対しての執着ぶりを書いておられます。

『ねこまんま』とか『立ち食いそば』とか。

あるいは『カップヌードル』、『ナポリタン』、『納豆』、『おにぎり』、『弁当』、『カレーライス』などなど・・・・。

そうそう、こういうのがいい。

高級な幻のなんたらとかン万円のステーキなんていわれても、それはそれで羨ましく思いますが共感はありません。

やはり庶民の原点はこういう食べ物ですよね。(笑)

グルメではありませんが食い意地は人後に落ちない。

そう自負する人は多いんじゃないでしょうか。

皆が共感できる内容だと思います。

ラベル:グルメ本
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2014年07月03日

「悪果」黒川博行

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主人公の堀内は大阪府警今里署のマル暴担当刑事です。

給料だけではやっていけず、関わった事件の情報を業界紙編集長の坂辺に流し、坂辺はその人物から広告料という名目で金を出させる。

そして堀内は坂辺から金を受取るというシノギで小遣いを稼いでいます。

暴力団の淇道会が賭場を開くという情報を掴んだ堀内は、ガサ入れで27人を逮捕します。

逮捕された客の中から金になりそうな人物の情報をいつものように坂辺に流し、坂辺はそれをネタに強請りをかけるのですが、車にはねられて死亡。

そして堀内の周りにヤクザがうろつき始めます・・・・。

警察小説というのは初めて読んだんじゃないですかね。

なかなか面白かったです。

600ページを超える長編ですが、まったく退屈を感じることなく読めました。

私の地元の大阪を舞台にしているということで身近に感じたせいもあるかもしれません。

もちろん登場人物はすべてリアルな大阪弁。

堀内と相棒の伊達のやりとりも面白い。

“業界”のシステムや用語も解説されており、勉強になりました。(笑)

前半はそのように堀内の“仕事”と“シノギ”で読ませていきまして、後半は堀内がそのシノギのせいで追い詰められていく。

調子よくいわせている堀内が逆の立場になっていくのもまたハラハラとさせられます。

楽しめました。

また他の作品も読んでみたいと思います。

ラベル:小説
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