2012年04月01日

「耽溺者(ジャンキー)」グレッグ・ルッカ

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主人公のブリジットは雇われの女性私立探偵。

親友のライザから「あいつに見つかっちまった」という電話を受けます。

あいつとはヴィンセントのこと。

麻薬密売人です。

ブリジットもライザも元は麻薬中毒者だったのですが、現在は更生しています。

そんなライザの行方を突き止めたヴィンセントは、暴力により金を強請り取ろうとしたのです。

相談を受けたブリジットは二度とヴィンセントがライザに手を出せないよう、徹底的に痛めつけるのですが。

その後ヴィンセントは何者かに射殺されます。

目撃者の証言から犯人はライザだというのです。

子供を抱えたライザの罪を晴らすためブリジットが取った行動は・・・・。

この作品はアティカスというボディーガードが活躍するシリーズの番外編だそうです。

そのシリーズの脇役が主人公となっています。

書評家の北上次郎氏が対談で2005年度の「今年の5冊」に選んでおられまして、シリーズを知らなくてもこれ単独でも大丈夫と対談相手の大森望氏。

どんなものかと読んでみました。

感想としましては、まずまずまあそれなりに。(笑)

650ページを退屈することなく読めました。

主人公のキャラも魅力あると思います。

ただこの作品に限らずですが、翻訳もののエンターテイメントってもっと短くならないものですかね。

なんでこの内容でこんな枚数を費やすのかなといつも思ってしまいます。

本の厚さほど内容の濃さが感じられないのです。

これは私が翻訳ものに感情移入できないせいなのかもしれないのですが。

このあたりが私にとってはネックですね。

ラベル:海外小説
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2012年02月25日

「邂逅の森」熊谷達也

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時代は大正。

松橋富治は二十五歳。

マタギを生業としています。

といっても組ではまだいちばんの下っ端です。

厳しい自然の山中でアオシシやクマを狩る毎日ですが、ある日地主の一人娘文枝と知り合い夜這いをかけます。

それがきっかけで恋仲になるわけですが、貧しい家庭の富治と地主の娘では立場が違います。

密会を重ねるうちに文枝が妊娠。

富治は村を追われ、マタギから足を洗うことに。

鉱山で働いていたのですが、やはり自分はマタギとして生きていくしかないと決意します・・・・。

いやあ、ごつい小説ですね、これは。

マタギの生き様、動物や自然との関わり、山の神様への敬虔と畏怖。

まるで自分が厳しい雪の山中にいるような気さえします。

マタギの仕事なんて私にとってはもちろんまったく未知なわけですが、わからないなりにもここまでよく描いたものだと感服です。

主人公のマタギとしての生き様を柱に、妻イクとの寄り添いもいい。

マタギの女房として実にしっかりと脇を固めています。

ラストのヌシと呼ばれるクマとの死闘は壮絶です。

圧巻の500ページですね。

史上初の直木賞、山本賞ダブル受賞とのこと。

お互い牽制しあっている賞なので普通どちらも受賞ということはないんですけど、この作品ならばそうせざるを得ないでしょうね。

どちらもこれは無視できない。

他に有力な作品がなかったのかもしれませんが(笑)、やはり候補作の中で抜きん出ていたということでしょう。

文学の力というものを強く感じさせてくれた小説でした。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 18:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 『く』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年07月26日

「忌中」車谷長吉

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短編集です。

表題作の「忌中」は体の不自由な妻を抱えた67歳の男が妻を殺し自分も死のうとするのですが、死に切れません。

妻の死体を箱に詰め込み押入れにしまい、どうせ返すつもりもないとサラ金から借金をしまくり、マッサージ嬢に貢ぎます。

箱の中で腐乱していく妻の死体を時々覗き見る男。

やがて男も自ら命を絶ちます。

「警察の方へ。/奥の茶箱の中に妻の死体があります。私の死体ともども、よろしく処分をお願いいたします。私には借金があります。菅井修治。」と記した紙の表に大きく「忌中」と書き、玄関のガラス戸に貼り付け、家の中で首を吊るのです。

「三笠山」は事業で借金を抱えた一家の無理心中の話です。

眠った2人の子供を絞め殺し、夫婦は車に排気ガスを引き込んで心中します。

これも遺書が切ない。

「警察の方へ。/奈良今御門町の采女ホテルに二人の子供が死んでいます。それは私たちの子です。ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いいたします。/吉兼田彦。/蘆江。」

なんとも救いのない話です。

しかし結末に救いはないのですが、夫婦の愛が最後まで貫かれているのがこれらの作品の無残な中の美しさでしょう。

「忌中」で妻を殺した男はマッサージ嬢に入れあげますが、そこに愛などはまったくありません。

男の心はあくまでも時折箱の中を覗き、腐乱していく妻にあるのです。

「三笠山」にしても夫婦はお互いいっしょになれてよかったことを確認しあい、死ぬ前に何度もまぐわいます。

解説で「これは、純愛小説なのではないのだろうか。」と書かれていますが、私もまさしくと思いました。

身も蓋もないほどの人間の業を書く作家、車谷長吉が書く純愛は壮絶です。

ラベル:小説
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2010年09月08日

「万寿子さんの庭」黒野伸一

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主人公の京子は二十歳。

就職を機にあるアパートに引っ越してきます。

近所の一軒家におばあさんが住んでいるのですが、そのおばあさんこと万寿子さんが曲者で。(笑)

最初は京子もいけすかないおばあさんだと思います。

出勤のとき庭の手入れをしている万寿子さんと顔を合わせると「寄り目」だの「ブス」だの言われます。

ある夜、酔っぱらって帰ってきたとき、思わず万寿子さんの家の前で戻してしまう京子。

翌朝顔を合わせて詫びます。

その後、出勤のため駅に向かうのですが、どうも駅や電車内で周りの様子がおかしい。

思いつつ、電車を降り会社に向かう京子。

途中で同僚のチヨちゃんに背中の貼紙を指摘されます。

「この人は昨晩酔っ払って、わたしの家の前で反吐を吐きました・・・・」云々の内容です。

絶句する京子。

こんなのを背中に貼り付けてここまで出勤してきたのかと。

万寿子さんの仕業です。

いったいあのババアはなんなのだと。

その後も何度か顔を合わせ、ムカッとくるのですがどうも憎めない。

やがて京子と万寿子さんの友情が芽生え始めるのです・・・・。

五十歳以上も歳の離れた女性二人の友情がほのぼのと描かれています。

二人で旅行に出かけたり、お互いの哀しい過去を打ち明けあったり。

それを軸に京子と同期入社の荻野くん、近所のアパートに住む山本さんといった男性との恋愛が絡みます。

ほろっとさせられるところもあり、ラストの着地点も無難でしたかね。

心が洗われました。(笑)

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 05:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 『く』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月23日

「武蔵丸」車谷長吉

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短編集です。

私はやはり表題作の「武蔵丸」がよかったですね。

作者が拾ってきた兜虫に武蔵丸と名付け、妻と一緒に可愛がる様が描かれています。

この思い入れ具合がやや偏執的であり、生々しさを感じさせますね。

夫婦でまるで我が子のように可愛がるのです。

その武蔵丸を中心とした生活が丁寧に書かれています。

鍬形虫を飼っている知人に「うちの鍬形は七年は生きるってよ。お宅の兜虫なんて半年じゃないの。あした死ぬよ」と言われ、「糞ッ、と思うた」

一ヵ月後にその鍬形虫が死んだという連絡を受け、「ざまァ見やがれ、と思うた」

さすがの長吉節です。(笑)

発情の様子も、作者の「中指の爪と肉との間の窪みを、牝の女陰(ほと)の割れ目と勘違いして、己が男根をその指の割れ目に猛烈な勢いで挿入し、軀全体、口髭までも烈しく顫わし、痙攣させるのだった」。

虫の描写とは思えませんね。

秋が深まり気温が下がってくるにつれ、死についての危機感が深まってきます。

発情で精液を出し尽くし十グラムの体重が九グラムに減り、ほとんどの足の先を失い、ストラディバリウスのヴァイオリンのように輝いていた翅の光沢も鈍く衰え、ぼろぼろの状態になっていく武蔵丸。

そしてある冬の日、白木蓮の枯葉の上で「右前足を内側に曲げ、やや斜めになった姿勢で」動かなくなっていました。

家に来て四ヶ月目の朝でした。

「嫁はんは目を泣きはらし、居間の箪笥の上に、真ッ赤な柿の葉を敷き、周りに代々木公園で拾って来た櫟の葉を配して、その中に武蔵丸の屍を安置し、祭壇をしつらえた。屍は石のようだった」

なんとも重い描写です。

「恐らく生涯独身、童貞であったであろう」

これには思わず吹き出してしまいましたが。(笑)

「私は直立して、両手を合せ、佛説摩訶般若波羅蜜多心経を誦した」

参りました・・・・。

拾って来たカブト虫が死ぬまでの四ヶ月をここまでの小説に仕立てますか。

生と死というものをまざまざと見せ付けられます。

第27回川端康成文学賞受賞。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 13:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 『く』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする