2020年03月04日

「若冲」澤田瞳子

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京の錦高倉市場にある青物問屋枡源。
主の源左衛門は弟たちに商いを任せ、奥行きのある店の最も奥まった一室でひたすら絵を描いています。
店のことはほったらかし、娶った妻が姑たちにいびられていてもかばうこともせず、そのせいで妻のお三輪は蔵で首を吊って死にました。
そんなことがあってお三輪の弟である弁蔵は、枡源と源左衛門を激しく憎悪しています。
源左衛門はやがて店を隠居し伊藤若冲と名前を変え、独自の絵を生み出して人気の絵師となり境地を極めていきます。
ですが若冲の贋作が出回るようになります。
贋作を描く絵師の名は市川君圭。
その絵を見た若冲は戦慄します。
ここまで自分の絵に迫ろうとする者が他にいるはずがない。
君圭とは行方を晦ました弁蔵に間違いない。
贋作による弁蔵の若冲への復習が始まります・・・・。
なんとも奇抜で精緻、そして鮮やかな絵を描いた江戸時代中期の絵師、伊藤若冲の半生を書いた小説です。
この小説で著者は非常に大胆な脚色をしておられます。
歴史の資料には若冲が結婚していたという記録はありません。
この小説では若冲は絵に打ち込むあまり娶った妻をまったく顧みず、そのせいで妻が自害してしまったという設定になっています。
そんな妻に対しての償いが若冲の絵に対しての情念となっているんですね。
そして義弟で若冲の贋作を描き続ける市川君圭。
私はこの人の名前は知らなかったのですが、実在の人物だそうです。
しかし若冲と義兄弟であったわけではもちろんなく、また小説中のように若冲の贋作を描き続けたなどという事実もありません。
ですがこの小説では君圭のその執念が若冲を怯えさせ、また君圭を突き放して自分の作品をより一層の高みに持ち上げるためのモチベーションとなっています。
私個人としましては大胆な設定がエンターテイメントとして楽しめました。
ただ絵の素人だった弁蔵(君圭)が若冲の作品と見まがうほどの技術を数年で身につけたというのは、ちょっと走りすぎかなと思いました。
また、復讐するために贋作を描くという発想は私にはないなぁと。(笑)
普通はもっと違うことを考えるのでは。
で、市川君圭が伊藤若冲のストーカー贋作師だったという設定は、美術の専門家や愛好家にどう受け止められたのでしょう。
ちょっと気になります。(笑)
ラベル:時代小説
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2020年02月13日

「コンプレックスの行き先は」里崎雅

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ぽっちゃりした体形の小山内葉月は建設会社に勤める24歳のOLです。
そのぽっちゃり体形がコンプレックス。
職場は小さな支店だし職業柄周りはほとんどおじさんばかり。
そんな状況にも慣れて日々過ごしていましたが、ある日やってきた取引先の営業マンを見てびっくりです。
小・中学時代からの付き合いで、一時期は同じ高校に進学することにもなっていた木田和樹でした。
しかし木田のある一言が葉月のコンプレックスを逆なでし、二人は離れてしまうことになります。
スーツとメガネが似合うイケメンになって葉月の前に現れた木田ですが、葉月は木田に対していじめっ子のような感情を持っており、接点を持ちたくありません。
しかし木田は積極的に葉月を食事に誘ったりしてきます・・・・。
なるほど。
女性ってほんと体形やら体重やらを気にしますよね。
なんなんですかね、それって。
で、この作品は、ぽっちゃりな体形をコンプレックスに思っている女性がいて、そんなことを気にするどころかずっとそういうおまえが好きだったんだという男性が現れて、もちろんその男性は他の女性が振り向くようなイケメンで、あなたの近くにはもっと素敵な女性がいるのにわたしなんか・・・・という女性のナルシズムをくすぐる設定です。
でも読んでいてそれほど白々しさを感じなかったのはこの作者の上手さなんでしょうか。
お互いの気持ちの勘違いにもほどがあるとは思いましたが、まあそれはこのジャンルのお約束事としてむしろ楽しむべきなんでしょう。
エッチのシーンもかなり後半になってから。
これも早いうちからエッチなシーンで読者の目を引こうというあざとさがなくていいですね。
そこそこ楽しめました。
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2019年12月23日

「手塚番 神様の伴走者」佐藤敏章

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手塚治虫といえばマンガの神様。
見た目も上品で優しそうなおじさんといった雰囲気です。
しかしそれは第一印象だけ。(笑)
担当の編集者からしたらとんでもないオッサンなのでした。
平気で嘘はつく、締め切り間際に逃げる、ときには原稿を落とす(締め切りに間に合わないこと)、などなど。
そんな手塚の担当編集者を手塚番と呼びます。
この本は手塚番となったばかりに地獄を見た(?)13人の編集者、プラス外伝として3人の編集者へのインタビュー集です・・・・。
マンガ界の裏話に興味のある人なら皆ご存じでしょうが、先述したように手塚治虫という人はとにかく編集者泣かせのマンガ家だったそうです。
九州に脱走したなんてエピソードもあります。
とにかく目を離すといなくなったり原稿を後回しにされたりするので手塚番はひたすら付きっ切り。
泊まり込み18泊なんてエピソードも紹介されています。
しかしさすがにマンガに関しては天才。
その仕事量たるや凄まじいものがありました。
もちろんすべてひとりでこなせるわけはなくアシスタントを何人も使っていたわけですが、出張先から電話でアシスタントに何ページの何コマ目はどこそこの引き出しにあるどの資料を使って、みたいな指示もしたようですね。
すべて頭の中に入ってるんですよ、原稿はもちろん作品に関係するすべてのことが。
記憶力はものすごく優れていたようですね。
まあとにかくエピソードといいますか、伝説には事欠かない偉人です。
個人的には少年チャンピオンの名物編集長だった壁村耐三氏へのインタビューが読みたかった。
この本の中でも何度か名前が出てきます。
伝説の編集者ですから。
この企画を立てた時点では亡くなっておられたようで。
手塚にハサミを投げつけたとか、リンゴを齧りながら手塚の仕事場にぶらりと現れてそのリンゴを投げつけたとか。
なにしろヤクザに腹を刺されてその傷をセロテープで貼り付けて出社したとか、この人もまたとんでもないエピソードの持ち主ですから。
私も一度だけお会いしましたが、「おぅ、〇〇。描けよ」と声を掛けていただきました。
ものになりませんでしたが。(笑)
手塚治虫にしろ編集者にしろ、こんな人たち今後は出てこないでしょう。
今から思えば、昭和って濃い時代だったんですねぇ・・・・。
ラベル:マンガ本
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2019年10月28日

「スイッチ」さとうさくら

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苫子は26歳。
就職活動で落ち続け、現在はフリーター。
友達も彼氏もおらず、いまだ処女。
コミュニケーションが苦手でファミレスのバイトもクビになってしまいます。
なんとか清掃会社にバイトで入り、そこでいろんな人と出会います。
苫子の教育を担当した主婦の中島さん、後輩の元キャバクラ嬢の瑠夏、苫子が清掃しているビルに会社がある短大時代同じ専攻だった結衣。
たまたま仕事帰りに目について立ち寄った喫茶店のマスター、サル男。
いろんな人と関わりながら、苫子の日常が変わってきます・・・・。
これが作者のデビュー作。
以前に「携帯を盗み読む女」というのを読みまして、これがイマイチでした。
ですがこのデビュー作は思いのほかよかった。
最後までじっくりと読まされました。
それぞれの登場人物にいろんな事情があり、苫子がそれに巻き込まれながらも性格的に近づけず距離を置いた付き合いだったりします。
そのあたりをじっくりと描いていますね。
タイトルのスイッチですが、これは人に皆首の後ろにでも小さなスイッチがあり、そのスイッチを押すとその人物がこの世から消える。
そんなスイッチがあればいいのに、という苫子の願望です。
苫子の性格といいますか世の中から浮いていると思っている心理を表しているとは思いますが、タイトルにするほど効果的なアイテムになっているのかなと思いました。
ラベル:小説
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2019年05月27日

「5」佐藤正午

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津田伸一は小説家。
ネットで女性を引っかけては遊んでいる女たらしです。
中真智子という人妻とも不倫中ですが、別れを切り出されます。
原因は真智子が夫婦で行ったバリ島旅行で夫の志郎が知り合った手袋をした石橋という女性。
たまたま彼女と手を触れた志郎に変化が訪れます。
それまで真智子と体を合わせるのが苦痛でしかなかったのですが、人が違ったように真智子を求めるようになります。
夫婦生活が戻り子供を授かることを考え伸一に別れを告げる真智子。
そして伸一のサイン会に志郎が訪れて、話がじわりじわりと展開していきます・・・・。
小説家津田伸一の放蕩さには、男女の愛についての冷めた目があります。
「必ず冷めるもののことをスープと呼び愛と呼ぶ」
「真理だ」
「その真理がくつがえるんです」
石橋との出会いで不思議な能力を授かり、真智子との愛を取り戻したかに見える志郎。
その行く末は。
そして女遍歴を重ねる伸一は果たして順風満帆な小説家生活を送れるのか。
いろんな人間が交錯し、物語を綴っていきます。
660ページ、渾身の長編です。
ラベル:小説
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