2021年02月04日

「後宮小説」酒見賢一

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帝王が急逝し、定めにより後宮が解散させられます。
そして跡を継ぐ若干17歳の皇太子のため、新しい後宮作りがなされます。
田舎者の銀河という娘が後宮入りすることになるのですが。
世間を知らないので恐れ知らずの粗野な娘です。
ですが半年の教育を受け、数多い宮女の中から正妃として選ばれたのがなんと銀河。
さすがの銀河もちょっとビビリます。
なぜ私が。
しばらくして反乱軍が宮廷を攻めてきます。
しかし宮廷の軍はだらしなく逃亡。
銀河が宮女を集め、後宮軍隊を組織して立ち向かいます・・・・。
中国(と思われる国)を舞台にした小説です。
最初は大丈夫かなと読み始めたんですよね。
だって中国の小説なんて人名や地名の読み方が覚えられないから。(笑)
でもまったく読みにくさはありませんでした。
そして作者が読者に語りかけている的な手法のせいもあって、堅苦しくなくさくさくと読めました。
ざっくりいえば田舎娘が大奥で殿様のお手付きになり(本作では手は付けられていませんが)、正室になったということです。
この田舎娘銀河のキャラがいいんですよね。
ただ後宮を守るため後宮軍隊を組織した銀河をもっと読みたかった。
いや、正妃となってからの銀河も。
これはファンタジーノベル大賞の第1回受賞作。
つまり枚数に制限のある応募作ですので、そこまで深くは書ききれないでしょう。
ただそうでなければもっと枚数を割いて掘り込めたのではないかと思いました。
作者の考えはわかりませんが。
私は枚数増えてもそのあたりを厚くしてほしいという気がしましたね。
読んでいてずっとワクワクしていたのですが、最後はちょっと尻すぼみな感がありました。
ラベル:小説
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2021年01月28日

「窓際OL 親と上司は選べない」斎藤由香

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窓際OLシリーズ第3弾です。
しかし読んでいて思うのが本当に著者の会社(サントリー)はこのような社風なのかと。(笑)
上司のことを小心者の子ネズミ部長とか食べてばかりの胃袋部長とか、好き放題書いておられます。
もちろんご本人たちはそれを知っており、社長などは「もっと書いたれ」などと面白がっているとか。
作家の娘でエッセイストということもあり多少は大目に見てもらっているのかもしれませんが、それにしても・・・・。
ちなみに窓際で好き放題やってきたツケが回ったのか、この後広告会社に出向させられたとか。
これについては次作の「窓際OL 人事考課でガケっぷち」に書いておられます。
また楽しみに読ませていただきましょう。
ラベル:エッセイ
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2021年01月19日

「鳩の撃退法(上・下)」佐藤正午

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津田伸一は過去に直木賞を受賞したこともある小説家です。
しかし業界から干され、現在はデリヘルの送迎ドライバーをしています。
そんな津田のもとにあるきっかけで3千万円もの大金が転がり込んできます。
さっそくその中の1枚を使ったところ、何人かの手を渡ったところで偽札だったと判明。
警察だけでなく“本通り裏”の人物もその出所を追求しているようです。
その“本通り裏”というのは家族3人失踪事件やその街で起きた他のヤバイ事件にも必ず関わっているという人物で。
知らぬ間に津田は事件に巻き込まれていることに気づきます・・・・。
これ、「5」の続編なんですよね。
といっても話につながりはなく、小説家として干された津田伸一の後日談といいますか。
しかし後日談というようなのんびりした内容ではありません。
上下巻合わせて1000ページ以上の長編です。
津田は偽札を使った人物として追われ、しかも結果的に他のヤバイ事件にも関わってしまっている。
とっととトンズラすればいいものを、この男は首を突っ込んでいく。
この飄々とした津田のキャラは実に佐藤正午らしい。
まず主人公である自分が体験した事件を小説化して読者に提示しているというメタフィクション的なスタイルです。
そして現在と過去が入り混じってけっこうややこしい構成ではあります。
ですがしっかりと緻密に構成されており、巧みに伏線が張られています。
上手いなぁと思いますね。
ただ「鳩の撃退法」というタイトルにどのような結末をつけるのかなと読みながら思っていたのですが、それに対しては私はちょっと肩透かし感がありましたね。
尻すぼみ的な感を持つ人も多いんじゃないでしょうか。
この作品、第6回山田風太郎賞を受賞しています。
今まで無冠の帝王だった佐藤正午氏がようやく認められました。
選評会で筒井康隆氏が「この人を逃がすな」とコメントされたとか。
このあと「月の満ち欠け」で第157回直木賞を受賞されましたが、筒井氏のコメントが結構影響したんじゃないでしょうか。
私はそう思っています。
というか、もうとっくに受賞しておかしくないほどの作家でしたけどね。
やっと正当に評価されたのかという思いです。
まあなんにせよこの作品は相当な力作です。
あ、佐藤正午の小説に力作なんて言葉はふさわしくないか。(笑)
ラベル:小説
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2021年01月13日

「陽はまた昇る 映像メディアの世紀」佐藤正明

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カラーテレビ普及の後これといった家電製品は登場せず、業界は不振が続いていました。
そこに登場したのが「20世紀最後の大型家電商品」といわれるホームビデオ。
当時を知る人ならば、当初はVHSかベータかと悩んだことがあるかもしれません。
この本ではホームビデオの開発、規格の世界統一、そして日本はもちろん海外への普及といった開発者たちの苦労が描かれています。
まず、VHSを開発したのは日本ビクターなんですね。
ベータがソニーという知名度に比べればちょっと一般の認識は低いかも。
当然どちらのメーカーも自社の商品を標準規格にしようと相手に話を持ち掛けます。
ソニーがビクターの親会社である松下電器に交渉するも松下幸之助は却下。
VHS対ベータの対決に突入します。
で、各家電メーカーもどちらの規格を採用するか、表面上や水面下でいろんな駆け引きが始まります。
結果的にはVHSの圧勝に終わったわけですが、ベータにしてもアメリカで著作権侵害として訴訟されたり、その歴史にはさまざまに苦労がありました。
この本ではVHSの生みの親である日本ビクターの故・高野鎭雄氏を主人公としてビクター側から描かれていますので、ソニーが悪役ではありませんが巨大なライバルとして存在しています。
松下が親会社とはいえ、ソニーに比べたらビクターは弱小企業です。
そんなソニーに果敢に挑む挑戦の物語です。
また商売を度外視してでもVHSを世界基準にしたいという高野氏の夢を追った物語でもあります。
約650ページ。
どっしりと読み応えのあるノンフィクションでした。
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2020年12月02日

「東電OL症候群」佐野眞一

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東京電力という一流会社のOLが夜は売春婦として毎夜ホテル街に立っていました。
そして無人のアパートの一室で殺害されました。
当時は大きな話題になりましたね。
やはりなんといっても被害者がエリートだったというのが大きいです。
当時の彼女の肩書は企画部経済調査室副長。
なぜそんなエリートが売春などやっていたのか。
あるネパール人が犯人として逮捕されるのですが、証拠があまりにも不十分です。
しかし警察は強引に逮捕します。
著者は徹底した取材をし、被告人の無罪を主張します。
その通り、一審では無罪判決となりました。
ここまでを追ったのが「東電OL殺人事件」です。
これはその後を追った話であり、また前作を読んで感銘した読者たちに取材したりもしておられます。
一審で無罪になったものの、検察側は高裁に控訴します。
そして逆転有罪になってしまうのですね。
無期懲役。
不十分で説得力のない証拠にもかかわらず。
その後この裁判に関わった判事が少女買春で逮捕されます。
これについてもきっちりと取材。
この裁判で有罪を下した判事はどのような人物だったのかと。
それにしても司法なんていい加減なものですね。
裁判は客観的で公平なんてのは幻想です。
警察や検察、そして裁判に関わる者たちのさじ加減でどうにでもなる。
もし自分がこの被告人のような立場になったらと思うと、恐ろしくてなりません。
で、この事件といいますか、著者が記した「東電OL殺人事件」についての読者の反応はどうだったのか。
多数の手紙が寄こされたそうですが、ほとんど女性だったとか。
被害者に同感できるというんですね。
もしかしたらそれは自分かもしれないと。
この息詰まった世の中、そのような堕落願望、破滅願望のようなものは誰もが持っているのかもしれません。
男性はやはり性的好奇心で読んだ人が多いようです。
さて、前作本作と読みまして。
思いましたのは、やはり被害者の心の闇ですね。
そして被害者に自分を重ね合わせる女性たちの闇を思います。
マスコミの反応にも不満を覚えます。
そして司法の闇。
こんな判決がまかり通っていいのか。
ジャーナリストの筆で真実を書いていただき、ぜひともこのような理不尽に対抗していただきたいと無力な私は思います。
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