2018年08月25日

「恥辱」J・M・クッツェー

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大学教授のデヴィッドは52歳。
2度の離婚を経験し、現在は独身です。
軽い気持ちで女子学生に手を出すのですが、告発されてしまいます。
それがきっかけで大学や学生たちから非難を受け、教授を辞任するはめに。
田舎で農園を営む一人娘のところに逃避するのですが、そこでもまた災難に遭います・・・・。
主人公のデヴィッドだけを見ていれば、まあ自業自得ではあります。
しかしそのデヴィッドの転落する人生の中にさまざまな問題が提起されているのですね。
デヴィッドは元々は現代文学の教授。
しかし学部が閉鎖され、コミュニケーション学部というわけのわからない学部の准教授に降格させられています。
文学の衰退といいますか。
女学生に手を出すなんてのはセクハラ問題ですよね。
そしてこの作品はアフリカを舞台にしているのですが、娘の農園に転がり込んでからは人種問題が色濃くなってきます。
人間の一方的な都合による動物の安楽死の問題も。
ストーリーとしてはスケベな中年男の転落人生なわけですが、そのようないろいろなテーマを取り込んで厚みのある作品に仕上がっています。
ちなみに作者はノーベル賞作家であり、この作品で史上初の2度目のブッカー賞を受賞したとか。
しかしそのような堅苦しい肩書きに関係なく、翻訳にも変な言い回しなどなく非常に読みやすい作品でした。
ラベル:海外小説
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2018年08月11日

「空に唄う」白岩玄

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23歳の海生の家はお寺ということで、海生も新米のお坊さんです。
住職である祖父に付いて初めてお通夜を務めることになるのですが、遺影を見ると故人は若い女性のようです。
その女性が棺の上に腰をかけています。
びっくりする海生。
どうやら海生以外の人には見えないらしい。
その後も度々海生の前に現れる女性には行く場所がないようです。
放っておくわけにはいかず、海生は彼女(碕沢さん)に寺に住むよう提案します。
日を追うごとにだんだんと彼女に惹かれていく海生・・・・。
作者は「野ブタ。をプロデュース」でデビュー。
芥川賞候補になりテレビドラマ化もされ、話題になりました。
しかしデビュー作が大きすぎたせいか、正直その後はあまりぱっとしない印象です。
さてデビュー2作目はどんなものかと読んでみたのですが。
いいじゃないですか。
ファンタジーということになるんですかね。
幽霊と同居という非現実的な設定ではありますが、それを変におちゃらけた方向に持っていっていないのがいいですね。
同い年の彼女を「碕沢さん」とさん付けで呼び、ずっと敬語を使い続ける海生の真面目さがいい。
幽霊である碕沢さんにはこの世での生活にいろいろと不便があります。
海生の声以外の音は聞こえない。
物を動かすことができない。
ドアを通り抜けたりすることもできませんので、一人で部屋の出入りができない。
そんな不自由な碕沢さんを不器用ながらも一生懸命に支え、喜ばせようとする海生の健気さがいい。
地味ですがしみじみと感動できる恋愛小説です。
収穫でした。
ドラマにしてもいけるんじゃないでしょうか。
ラベル:小説
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2018年06月20日

「迷える空港 あぽやん3」新野剛志

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主人公の遠藤が勤める大航ツーリスト成田空港所がリストラの一環でいよいよ閉鎖となります。
そんな状況でも頑張る遠藤。
しかしどうも言動がおかしい。
やけにテンションが高いのです。
やがて遠藤に異変が訪れます。
出勤しようとすると体が前に進まないのです。
今後の業務のことなどを考えすぎるあまり、精神を病んでいたのでした・・・・。
シリーズ第3弾。
まず表紙のイラストが変わっていたので「あれ?」と。
で、読み始めますと、遠藤のキャラがなんだかおかしい。
こんなキャラだったかなぁと思いつつ読み進めまして、なるほどそういう話に持っていくのね、と。
今回は連作短編形式になっており、遠藤に代わりいろんな人物が主人公となっています。
なのでどうも今までとは勝手が違い、散漫な印象がありました。
遠藤に鬱的なシチュエーションを与えたのもどうなんでしょ。
あの遠藤でさえ的なインパクトはあるでしょうけど、キャラ的ストーリー進行的にどうなのかなと思いました。
それはそれでずっと遠藤にカメラを向け続けていればまたよかったんでしょうけど。
そもそも遠藤のお客様第一主義的な行動が私個人は好きになれないのですが、それを言ってしまうとお仕事小説の立場がないですよね。(笑)
でもこの仕事に限らずここまで客のことを考える店員がいるかなぁ。
なんだかこれでシリーズ完結みたいな雰囲気を感じたのですが、どうなんでしょ。
これが最終巻とするなら、ちょっとなんだかなぁという印象です。
ラベル:小説
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2018年03月02日

「染彩」芝木好子

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和服の絵柄を染彩するのが生業の葉子。
画家の良人は若い女に惹かれて出ていき、中学生の息子と仕事場と兼用の住居で二人暮らしです。
そんな葉子のもとに週に2日大学生の典夫が仕事を手伝いに来ています。
彼を助手に作った作品を職人として呉服店に、芸術家として展覧会に出品し、少しずつ精進していく葉子。
一緒に仕事をしているうちにひと回り以上歳下の典夫に心惹かれますが、世間体もあり自分のそんな気持ちに戸惑ってしまいます・・・・。
染彩にひたむきな女性の姿がいいですね。
でも商売気がなく生きることにはちょっと不器用で。
それは恋愛に対しても。
この作品では仕事場のある鷺宮、そして隅田川や銀座といった芝木作品には馴染みのある土地が舞台となっています。
時代は昭和半ばころでしょうか。
それらの設定と芸術がいつもながらに味わい深く趣のある世界を醸しています。
ラベル:小説
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2017年12月02日

「安井かずみがいた時代」島崎今日子

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作詞家、安井かずみ。
といっても今の若い人はほとんど知らないでしょうね。
そもそも作詞家自体、そうそう名前が知られる存在じゃないですから。
ましてや現在は歌謡曲も廃れ、ミュージシャンが自分で作詞作曲して歌う時代です。
作詞家という職業も危うい。
1960年代にデビューした安井かずみは数々のヒット曲を連発し、時代の寵児となりました。
例えば郷ひろみの「よろしく哀愁」は彼女の作です。
その他、「わたしの城下町」、「危険な二人」、「赤い風船」、「不思議なピーチパイ」など、挙げていったらきりがないくらい。
そんな彼女の生涯を追ったノンフィクションです。
作詞で注目を浴びたばかりでなく、その生き様は当時の女性の憧れでもありました。
いまやもう廃れましたけど、一時期カリスマなんたらなんて表現が流行りましたよね。
現在の芸能人では安室奈美恵や浜崎あゆみなどが若い女性に大きな影響を与えたカリスマ的存在でしたが、当時はそれが安井かずみだったといえますか。
ファッションとかの見た目はもちろん、生き様でその存在感を示していたように思えます。
章によりいろんな著名人(26人)へのインタビューで安井かずみのエピソードや言動を紹介し、その人間性や魅力を浮き上がらせています。
独身時代、そして加藤和彦との結婚後。
なんともセレブなおしどり夫婦でした。
結婚後の安井の変化についても書かれています。
このあたり、経済的にはじゅうぶん自立した女性でありながら、決してフェミニズムを主張するわけではなく加藤に尽くす安井の姿が描かれています。
また加藤も安井に相当な神経を使って尽くしていたようです。
安井が亡くなってすぐの加藤の再婚にはいろんな意見がありますけども。
安井が逝去したのは1994年。
すでにピークは過ぎており、時代も作詞家ではないだろうという雰囲気。
でもご存命ならそのあとどのような仕事をされたのでしょう。
非常に興味あります。
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