2020年06月16日

「それから」夏目漱石

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長井代助は三十歳になるかならないかの年齢。
しかし働きもせず、一軒家を与えられて父親から生活の援助を受け、毎日ぶらぶらと暮らしています。
ある日、平岡という友人が仕事で失敗をし、地元に帰ってきます。
平岡の妻三千世は、かつて代助が想いを寄せていた女性でしたが、平岡に譲ったのです。
そんな三千世との再会。
飄々と暮らしていた代助の生活がだんだんと思わぬほうに向かっていきます・・・・。
「三四郎」に続いて三部作といわれるうちの第二作です。
といってもこの三部作、話に直接のつながりはないんですけどね。
人の妻となった三千世との再会により、改めて自分の気持ちに気付いた代助。
平岡と三千世の結婚生活はほぼ破綻しています。
それがいっそう代助の気持ちをあおります。
父親から勧められる結婚話を断り続け、代助は平岡から三千世を譲ってもらう決心をするのですが。
しかしこの時代は今と違って人の妻と恋愛するなどもってのほか。
代助の父親や兄も代助と縁を切ることにします。
いままで職も持たず親からの援助でぶらぶらと生活してきた代助ですが、その援助が切られるわけです。
そんな自分にいったい何ができるのか。
しかし平岡に三千世を貰う話もし、三千世もまたそのつもりでいます。
生活力のない代助は崖っぷちに立たされ、焦燥感にかられます。
最後のほうの代助の心理描写など、ほとんど錯乱状態ですね。
狂気です。
でもこれ、ものすごく単純にバカな話で、30歳にもなって定職も持たず親の脛をかじってる男が親から切り捨てられて目の前が真っ暗になるという。
いや、作中の描写としては世界中が真っ赤になるんですけどね。
そんな男がいっちょまえに友人の妻を奪うなどという噴飯ものな話です。
理屈だけは一人前で結局は社会人としてなんの能力もない男です。
ええ歳こいて働けよ、と。(笑)
まあ代助のそんな生活も彼なりのポリシーがあってのことなんですけども。
でもそんなの生活という現実の前では屁のツッパリにもなりません。
タイトルの「それから」はまさしく代助のそれからはどうなるの、といったところ。
悲劇ともいえますし喜劇ともいえます。
ラベル:小説
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2020年05月11日

「紀伊物語」中上健次

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大島から路地にやってきた道子。
道子の母静子もこの土地で淫乱な女として忌まわれていました。
複雑な血の繋がりがあるこの路地。
そんな土地で道子はなにをしようというのか・・・・。
これね、あらすじを書きようがない。(笑)
「大島」と「聖餐」という2編なんですが、ひとつの長編として読んでもいいでしょう。
思ったのは、道子の変貌ぶり。
「大島」で処女だった道子がなんで「聖餐」でこんなヤリマンになるの?
わけわかんないです。
路地でバンドを組み、半蔵二世が歌う「マザー、マザー、死のれ、死のれ」という歌。
これが路地の終焉に重なります。
中上の作品でお馴染みのオリュウノオバも出てくるのですが、作中で死去します。
まさに路地の終焉なんですよね。
で、「どうだったの?」と問われると、「どうだったんでしょうね」としか私には答えられません。
この作品で中上はこのようなことを主張していたのだ、なんてこと私にはわかりません。
しかし読後感はずっしりときました。
中上健次の小説って、私にとってはすごく重い。
大げさと思われるかもしれませんが、「よっしゃ、読むぞ!」と気合を入れて読まなければならないんですよ。
軽い気持ちで読める小説じゃないんですね。
なので読んだ後は脱力感があります。(笑)
これ、文学の力でしょうか。
この「紀伊物語」、中上作品のなかではもひとつ主流ではないなと思うのですが、しかしベッタリと路地を描いておられるのは貴重かなと思います。
ラベル:小説
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2020年02月01日

「何がどうして」ナンシー関

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シリーズ第6弾。
内容につきましてはいつものようにいろんな著名人の言動を取り上げておられます。
ただ読んでいて、版画の似顔絵にしろ内容にしろ、ちょっと弱いんじゃないかなと感じました。
似顔絵がいまいち似ていない。
コメントもなんだか逃げ腰っぽい。
これは読者の私が勝手に思ったことかもしれません。
ですが、これまでにそんなことを感じなかったのに、これには感じてしまったんですよね。
ちょっと不調の時期だったのでしょうか。
ラベル:エッセイ
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2020年01月10日

「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」七月隆文

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京都に住む大学生の南山高寿は、電車の中で女の子に一目惚れしてしまいます。
思い切って声を掛け、付き合ってもらえることに。
彼女の名前は福寿愛美。
高寿は何度かデートして会話した中に、どうも腑に落ちない愛美の言葉に気付きます。
なぜか知るはずのないことを知っている。
実は彼女は別の世界からやって来て、この世界とは時間を逆に進む世界の女性でした・・・・。
ちょっと話がややこしいです。(笑)
彼の時間は未来へと進み、彼女の時間は過去へと進む。
そのすれ違いの期間を描いています。
普通、恋愛して付き合うとなると、二人で時間的に同じベクトルを向いて一緒に思い出を築き上げていきます。
一緒に歳を重ねていきます。
でもこの場合、どんどん遠ざかっていくのですね。
電車がすれ違うように。
そのすれ違っている時間が彼らのすべてなんです。
これはせつないですね。
やり切れません。
しかし二人は目一杯その時間を大切に過ごします。
現実離れした設定ではあります。
ですが、愛する人との今この時間。
それがどれだけ貴重で、その瞬間しか体験できないものであることか。
考えさせられる作品でした。
ラベル:小説
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2019年07月08日

「弱法師」中山可穂

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中編3編収録の作品集です。
どれも能をモチーフにしているとのこと。
脳に腫瘍のある子供とその母親を愛し、エリートの道を捨ててまで二人に尽くした医師。(弱法師)
愛する女性編集者のためにひたすら命を削って小説を書き続けた青年作家。(卒塔婆小町)
父と母と叔母の不思議な関係に戸惑いつつも心を熱くする高校生の少女。(浮舟)
中山可穂といえば女性同士の激しい恋愛を書き続けてきた作家さんですが、この作品集はちょっとベクトルが違います。
といっても、どれも熱く激しい恋愛であることには変わりないのですが。
叶わぬ思い、愛する人の死、それらのテーマが濃密に描かれています。
電車の中で読んでいて思わず涙をこぼしてしまったほど。
寡作な作家さんですが、そりゃこのテンションの作品をほいほいと書けるものではないでしょう。
それぞれの作品がまさに渾身の一作といえます。
ラベル:小説
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