2012年07月14日

「暗渠の宿」西村賢太

Cimg1965_2

表題作他1編収録。

まず最初の「けがれなき酒のへど」はデビュー作。

ひたすら普通の彼女が欲しいと願う主人公。

私小説ですのでもちろん作者がモデルです。

せっせとフーゾクを利用し、そんな相手を求めます。

やっとこさソープランドで理想の女性を見つけ、下心を隠しつつ紳士ぶってせっせと献身するのですが、結局はまんまと利用され大金を巻き上げられてしまいます。

そんな主人公でありますが、ちゃんと女性と付き合い、同棲していたこともあるのです。

それを描いているのが表題作の「暗渠の宿」。

とにかくまあ彼女に対してわがままで暴力的で自己中心的なこと。

小説として読んでいるぶんには面白いのですが、実際にはこんな男たまったものではありません。

私小説というもののどこまでが事実かはわかりませんが。

さて、どうしてもこの作者と比較される作家に車谷長吉氏がいます。

私の感想としましては、なんといいますか味わいが違う。

味わいといいますか、襞の数が違う。

車谷氏のほうが味わい深く襞が多いと感じるんですね。

中上健次と比べますと通俗的すぎます。

自分を模索する深さが違う。

なんといいますか、私小説といえどもけっこうエンターテイメントしてるんですよね。

ある意味ギャグとしても読めます。

意識してかどうかはわかりませんけども。

でも時代もあり作者のルーツもあり、これが西村氏の作風。

比べること自体間違っているのかもしれません。

なんにせよ今後も読み続けていきたい作家です。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 02:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 『に』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月06日

「濫觴の宴」西村寿行

Cimg1960

府中競馬場の売上金39億5千万円を積んだ現金輸送車が、中央高速道でトラックに体当たりされ襲撃されます。

なんとその輸送車を大型ヘリのバートル107が吊り上げ、持ち去っていくのです。

連絡を受けた警視庁はすぐに追跡します。

ヘリが着陸したのは長野県美ヶ原。

しかし発見されたのはハリボテの輸送車でした。

本物はどこに? 犯人はどこへ?

出だしから西村寿行らしい荒唐無稽なストーリー展開です。

現金輸送車をヘリコプターで吊り上げて強奪するなんて。

ですがこの現金強奪の目的は意外なところにあるんですね。

それこそがこの作品のテーマなのですが。

狩猟行政に対しての強烈な批判です。

罪もない動物を殺戮することを許している狩猟行政とはなんなのかと。

動物だけではなく人間にも猟による流れ弾の被害があるのです。

そんな被害にあって両目の視力を失った少女がこの作品で重要な役割をします。

犯人たちは強奪した金を使って団体を作り、その少女を柱として徹底的に狩猟行政をつぶそうとします。

しかし狩猟に関わる人間も黙ってはいません。

それで儲けている連中の事情もありますし、殺戮欲を封じ込められてもたまりません。

両団体の全面戦争です。

西村寿行らしいストレートで強烈なメッセージが込められています。

強奪事件に関しては犯人たちの一人である父親と刑事である息子といった関係も描かれています。

とにかくまあなにもかも強引にねじ伏せたような設定ですが、寿行ファンとしてはそれがまたいかにもでいいのですね。(笑)

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 05:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 『に』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月20日

「クラッシュ」楡周平

Cimg1936

航空機はもう完全にコンピュータによるハイテクの世界。

すべてといっていいほどコンピュータに制御されています。

そんな最新鋭の航空機のプログラムにウィルスが仕込まれ、操縦不能に。

犯人の犯行声明HPにはアクセスが殺到。

しかしそのHPにもウィルスが仕掛けられていたのです。

航空機はどうなるのか、そして世界に蔓延して経済を麻痺させていくウィルスをどう駆除するのか・・・・。

「Cの福音」「クーデター」「猛禽の宴」に続くシリーズ第4弾。

シリーズといいましても第2弾の主人公である川瀬雅彦が出てくるというだけで話の繋がりはありませんが。

今回はコンピュータ社会を痛烈に風刺したサイバーテロ小説です。

スタートからいかにも綿密な取材と資料を駆使したことが感じられる緻密な描写。

楡周平の作風ですね。

そしてぐいぐいと読ませていきます。

700ページ弱を弛ませることなく緊迫感を保ちながら引っ張る展開は圧巻。

ただしコンピュータやらインターネットやらを題材にしているので、今からすればちょっとどうかなという部分もありますが。

「お試しホームページ」なんて苦笑してしまいます。

しかし1級のエンターテイメントではあります。

これまでのシリーズの中ではいちばんの出来ではないでしょうか。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 03:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 『に』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年09月28日

「通天閣」西加奈子

Cimg1787

主人公は二人。

中年でフリーターの男性とスナックの黒服をしている若い女性。

二人の関係に繋がりはなく、交互に話が進んでいきます。

あえてどうと書くほどのこともない平凡な日常です。

いや、平凡ではないですね。

平凡なふうに書かれていますが非凡です。

しかしとにかくなにがどうということもないのですね。

男性には子連れの女性と結婚していたという過去があります。

女性にも同棲の男性に去られたという現在があります。

男性のほうはそのような過去に対してあまりうだうだしていません。

むしろ現在の自分に対して葛藤があります。

女性のほうは去っていった男に対してうじうじしています。

なんにせよラストでどちらも吹っ切れるわけですが。

これってタイトルを見ますと、江國香織リリー・フランキーの「東京タワー」を意識しているのかなと思うんですよね。

まずタイトルありきな感がしないでもない。

タイトルを決めてからちょっと強引に内容を結びつけたような。

内容はやはり大阪らしくベタです。

ベタな中にじゅわっとした味わいがあります。

それは人情であったり愛情であったり。

ただもひとつなにかこうぐっとくるものが欲しいところです。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 17:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 『に』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月11日

「猛禽の宴」楡周平

Cimg1708

Cの福音」の続編です。

大きく見ると「朝倉恭介vs川瀬雅彦シリーズ」の第三弾になるわけですが。

まだこの時点では朝倉恭介と川瀬雅彦に接点はありませんが、作者の中ではすでに六部作としての構想があったようです。

日本でコカインを売りさばくシステムを築き上げた朝倉恭介。

一匹狼的な存在ではありますが、そのシステムを築き上げるにはNYを拠点にし全米に君臨するマフィアのボス、ファルージオの後援があってこそ。

ファルージオは亡き親友の父親であり、恭介を「我が息子」と呼びます。

しかしビジネスでは対等のパートナーでもあります。

そんなファルージオが思慮の足りない部下フランク・コジモのせいで新興勢力の抗争に巻き込まれ、襲撃されてしまいます。

九死に一生を得ましたが、下半身不随となりボスの座を退くことに。

コジモはそこに目を着けました。

ファルージオの跡にボスの座に着いたアゴーニを暗殺し、自分が頂点へと登りつめます。

そして恭介もその支配下に収めようと暴力的な力を見せ付けるのですが。

父親のような存在であり、最大のビジネスパートナーでもあるファルージオを陥れたのがコジモだと知った恭介。

コジモに死の寸前まで追い詰められた恭介は復讐に立ちあがります・・・・。

「Cの福音」ではインターネットを利用した犯罪システムを取り上げインテリ犯罪的な内容でしたが、今回はかなりマフィアの抗争といったところに重点を置いておられます。

それだけに前作よりは緊迫感のある内容でした。

きっちりと復讐を遂げるのもカタルシスを満たします。

綿密な書き込みは相変わらず。

ラストには次作につながる伏線がきっちりと張られています。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 18:36| Comment(1) | TrackBack(0) | 『に』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする