2020年07月14日

「圏外同士」冨士本由紀

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蕪木秀一郎は58歳。
食品メーカーに30年務めてきましたが、3年前に本社の部長職から社員30人ほどの子会社の社長に就任しました。
早い話が出世コースからの脱落です。
まだまだ自分はいけると思ってみたり、いやもうだめなのかと思ってみたり。
家庭では妻との関係も完全に冷え切っています。
そんなある日、美貌の女、夏日乃絵と知り合います。
乃絵は服飾デザインの専門学校を卒業し、国内の有名ブランドに就職しました。
しかし下働きばかりで嫌気がさしていたころ、同じ専門学校だった北川慎と再会します。
彼が店番をしていた店に作品を置いてもらったところ、予想に反してそれらは売れ、ファッション誌でも紹介されるようになります。
何の未練もなく会社を辞めた乃絵。
しかしその後いまいちパッとしません。
慎と話し合い、ニューヨークで勝負しようと渡米。
ですが当然ながら現実は甘くないということを思い知らされ、しかも最悪な経験をし、挫折。
慎とも別れ、帰国したところ秀一郎と出会ったわけです。
一目見て乃絵に惚れた秀一郎は、デカイことを言って収入を得なければならない乃絵を自分の会社に就職させます。
入ってみて会社のショボさに唖然とする乃絵。
下心丸出しの秀一郎に乃絵は見向きもしません。
可愛さ余って憎さ100倍の秀一郎。
2人はどのように絡み合い、日々前進していくのか・・・・。
ユーモア小説というべきでしょうか。
ただちょっと秀一郎のキャラが極端すぎですかね。
作りすぎな感があります。
ただこのコメディのようなキャラが小説をユーモラスにしているのは確か。
これ、まともな人物だったらかなり重い内容です。
初老の男が若い女(といっても30手前くらいですが)に入れあげ、ストーカーまがいの行動まで起こしてしまうのですから。
しかも妻には見放され。
妻は秀一郎を残しボランティアで海外に行ってしまうのですね。
こうなると男は惨めなものです。
乃絵は今回東京で開催される世界各地の主要都市で行われているファッションイベントに参加するべく、寝る間も惜しみ猛然とスパートをかけます。
しょぼくれた男と女たちのパワフルさが対照的。
まあ秀一郎もそれはそれで新しい一歩を踏み出すような気配はありますが。
でもラストはもうちょっとはっきりと結果を示してほしかった気もします。
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2020年06月18日

「老後の食卓 ずっと健康でいるための食の常識」文藝春秋 編

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長寿の著名人49人が自らの長寿食を公開しておられます。
彼らは食に対してどのような考えを持ち、どのような食事をしているのか・・・・。
長寿食といいましても絶対的にこれというのはないんですよね。
なのでこの本でもさまざまな食事が紹介されています。
たださすがにジャンクフードを食べ続けてるなんて人はいませんが。
栄養学的な見地からこういうのがいいというのはもちろんあるでしょうが、結果論的なところもありますよね。
100歳まで生きた人の日頃の食事の内容を訊いてみたらこんなのだった、と。
なるほどこのような食生活が健康で長生きの秘訣か、と。
じゃあ皆同じような食事をしたら長生きできるのかというとそうでもない。
まあ私なんかは昔ながらの和食が体にいいんじゃないかと思っていますが(ただし塩分は控えめで)、だからといって長生きできる保証はないですけどね。
健康を気にするあまり食生活に神経質になってストレスがたまり、寿命を縮めてしまったなんて笑い話もあります。
まあできる範囲で栄養のバランスを考え、無理やり嫌いなものは食べず、ぼちぼちと楽しんでいくのがいいのかもしれません。
ちなみにこの本のサブタイトルは「ずっと健康でいるための食の常識」ですが、それ違うでしょう。
各自好き勝手にやってることを「食の常識」なんて言ってのけてはいけません。(笑)
ラベル:グルメ本
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2020年05月23日

「早春 その他」藤沢周平

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時代小説2編、現代小説1編、そしてエッセイという珍しい構成の一冊です。
表題の「早春」が時代小説の作家として知られる作者には珍しい現代小説。
5年前に妻を亡くし、娘の華江と二人暮らしの岡村。
華江は妻子持ちの男と付き合っています。
岡村は会社では窓際族、くたびれた建売の家はあと3年ローンが残っています。
妻の手料理が恋しく、立ち退きの話がある場末の和風スナックバー「きよ子」に通い、ママの清子に愚痴をこぼすような日々。
しかしある日いつものように「きよ子」に寄ってみると、灯りがついておらず真っ暗です。
しかたなく帰宅した岡村は華江から結婚するかもしれないという話を聞かされます。
付き合っている男がいよいよ妻と離婚を前提に別居したとのこと。
もし結婚して家を出るとなると、父親をひとり残すことになってしまいます。
そんなことに後ろめたさがあるのか、娘は「きよ子」のママに再婚を持ち掛けてみてはどうかといいます。
未亡人だという清子にまんざらでもない気持ちを持っている岡村ですが、だからといって声をかけてはいそうですかと話が進むものでもありません。
灯りが消えていた「きよ子」が気になる岡村は休日の昼間に店を訪れてみます。
向かいの店の女が言うには、どうやら店を畳んだようだと。
立ち退きの話は聞いていたものの、何も言わずにいきなり店を閉めるような人ではなかったはずなのに。
岡村は釈然としない気持ちになります・・・・。
なんともやりきれないようなリアリズムがありますね。
妻に先立たれ、職場では窓際族。
娘も結局は父親よりも付き合っている男です。
自分はこの家の相続権を放棄するので、再婚相手にそのように話を持ち掛ければいいとさえいいます。
まだローンが残っておりくたびれた家ではありますが、自分にとって勲章でもあるこの家をあっけなく「いらない」とはなんたる言い草か。
しかもかすかに期待していた「きよ子」のママも、実は未亡人ではなく旦那も子供もいたようです。
立ち退きにはさほど関心のない素振りをしていましたが、いちばんしつこくごねて高い立ち退き料を取ったのが「きよ子」のママだったとか。
やがて店は跡形もなく壊され、娘は初めての無断外泊をします。
いろいろなものが自分から去っていくんですね。
なんとも初老男性の寂しさ漂う一編です。
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2020年04月25日

「隣人を愛せよ!」古野一花

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小川香は地元の信用金庫に勤めるの独身の27歳です。
おしゃれのセンスもなく地味な女子。
人がいいのか親友に彼氏を寝取られ、しかも披露宴に招待されるという有様です。
そんなトホホな日々を過ごしていたある日、隣に住んでいた幼馴染みの高橋広輝が実家に帰ってきます。
広輝は元Jリーガーでドイツのプロチームでも活躍していたスターです。
現在はスポーツジムを経営する実業家。
香にとって広輝は、同い年ですが子供のころから自分を守ってくれる兄のような存在でした。
なのでつい広輝に弱音を漏らしてしまった香。
香の話を聞いて憤慨する広輝。
友達の彼氏を奪っておいて披露宴に誘う無神経な女と彼女の友達に乗り換えて結婚するというチャラい男は香と同じく広輝にとってもずっと同じ学校でしたから、広輝は俺も披露宴に出席させろと強引に割り込みます。
本当は披露宴出席に気が進まなかった香に「披露宴の間中どころか、行きから帰りまでずっと一緒にいてやる」と支えてくれる力強い言葉も。
部屋で2人きりそんな話をしているうちにだんだんいい雰囲気になってきて・・・・。
地味な主人公と現役でないとはいえ有名人である元サッカー選手という設定は、まあこのエタニティシリーズの王道といえましょう。
御曹司やエリート社員というのが多いパターンですが。
さて、2人を見返すべく披露宴当日に向けて香を徹底的にいい女に磨き上げるためのプロデュースをする広輝。
当日の新郎新婦の驚きと嫉妬は読者にとってもカタルシスです。
まあ地味なOLが一変して幼馴染みとはいえ有名人の彼氏を持ち美しくなること自体、カタルシスといいますか羨望で憧憬な話なんですけどね。
でもさほど不自然さも強引さも感じることなく、スムーズに読めました。
エタニティシリーズの赤お決まりのエッチシーンもほどよく散りばめられています。
あ、私何冊もこのシリーズ読んでいますけども、エッチシーンで“後ろの穴”なんて出てきたのは初めてです。
地味な主人公ですが、あちらのほうはなかなかのものでした。(笑)
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2020年02月09日

「縁を結うひと」深沢潮

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在日朝鮮・韓国人の縁談を仕切る金江のおばさん。
お見合いおばさんとして有名です。
在日同士の見合いを斡旋することによって御礼の収入を得、衣装を作ったり見合いや結婚式をするホテルからマージンを得て生活しています。
髪を紫に染め、きらきらと宝石の付いた眼鏡をかけて見た目は派手。
押しも強気なおばさんです。
の割には生活は質素。
稼いだお金はどのように・・・・?
連作短編集です。
最初の「金江のおばさん」がR-18文学賞でのデビュー作。
その他5編が収録されています。
どれも在日朝鮮人・韓国人を扱っておられるのですが、いやぁ、これはよく書けたなぁと。
作者はご両親在日韓国人で、ご本人は結婚を機に日本国籍を取得されたとのこと。
そのせいでしょうか、この作品では在日のいろんな人たちを描いておられるのですが、その立場による苦悩、そして家庭における伝統的な風習など、実にリアル。
それぞれの立場の人物が登場しますが、ほんと上手く書いておられますね。
在日韓国人の家庭に嫁いだ日本人女性の苦悩を描いた「日本人(イルボンサラム)」など、この描写はさすがといっていいんでしょうか。
風習、心理、どちらもしっかりと描いておられ、まさしくこれが在日の生活であり日本人との現実的なギャップだなと思いました。
いろんな立場の在日の人たちを取り上げ、作品集として実にふくよか。
いい一冊です。
ラベル:小説
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