2014年03月05日

「ようこそ地球さん」星新一

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ショートショート42編収録。

はじめて商業誌に掲載された「セキストラ」や、それよりもまだ昔に書かれた「小さな十字架」なども収められています。

さすがにすべて佳作というわけにはいかず、感心する作品は数本でしょうか。

かといってそれ以外が駄作というわけではありません。

私がこれはと思ったのが「処刑」という作品。

枚数もやや長く、ショートショートというよりは本格的な短編SF小説といった読み応えがあります。

星作品にはユーモラスな雰囲気のものとシリアスなものがありますが、これは後者です。

星新一はもう何十年も前に読んだきりなので内容もほとんど覚えておらず、どれも初めてのような感覚で読めました。

ラベル:小説
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2014年01月14日

「雪沼とその周辺」堀江敏幸

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雪沼という寒い地方にある小さな町。

そんな町で暮らす人たちの様々な人生を切り取った短編集です。

それぞれの話に繋がりはありませんが、舞台が小さな町ですので他の作品で取り上げた話題がさりげなく出てきたりはします。

主人公は手に職を持つ人たち。

「スタンス・ドット」では一人でボーリング場を経営し、メンテナンスも自らやっている年老いた男性の話。

「河岸段丘」は紙の裁断をする主人公とその機械をメンテナンスする友人の話。

「レンガを積む」は昔ながらのステレオを置くレコード店主の話。

仕事を書くのが上手い作家さんだなぁと感心しました。

どの登場人物も“さん付け”で書かれています。

そのせいでどの作品も柔らかくほんわかして雰囲気があるんですね。

エンターテイメント小説ではないので山あり谷ありの内容ではありませんし、ラストも誰もが納得するオチはありません。

地味ですが実に味わい深い。

人物がいい。

他の作品もぜひ読んでみたい作家さんです。

ラベル:小説
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2014年01月08日

「部屋いっぱいのワイン」細川布久子

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著者がパリで行われたワインのコンクールで優勝するシーンから始まります。

といってもソムリエの代表選考会とか世界大会といった大きなものではありませんが。

フィトウというややマイナーなワインの試飲会です。

しかし参加者は著名なワインジャーナリストたち。

そんな中での優勝ですから立派なものです。

賞品として1年間フィトウにあるブドウ畑の所有者となり、1年後その畑で収穫されたブドウで作ったワインを150本贈呈され、しかもエチケット(ワインラベル)には畑の所有者として名前が明記されるとのこと。

ワイン好きにはたまらない名誉ですよね。

そんな導入部から始まって、著者のワインを中心としたパリでの生活の奮闘ぶりやいろんな人たちとの出会いが書かれています。

著者がワインと出会ったのは作家の開高健氏がきっかけだったそうです。

ちなみに単行本で出版されたときのタイトルは「エチケット1994」。

著者の名前が明記されたエチケットからのタイトルですが、もちろん開高健氏の短編集「ロマネ・コンティ・一九三五年」へのオマージュでありましょう。

本書の最後の文章も開高氏への思いで締めくくられています。

ラベル:グルメ本
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2013年10月17日

「音もなく少女は」ボストン・テラン

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貧困な家庭に生まれ、耳が聴こえない少女イヴ。

父親のロメインは母親のクラリッサに暴力を振るうろくでもない男です。

しかも麻薬の売人。

取引にイヴを利用するような男です。

そんなイヴとクラリッサはフランという過去に傷を持った女性と知り合い、家族のように付き合うことになります。

フランはイヴにカメラを与え写真を教えます。

イヴはつねにカメラを持ち歩き、あらゆる写真を撮ります。

そしてチャーリーという恋人ともめぐり逢うのですが・・・・。

久しぶりの翻訳もの。

この作者は他の著書で2001年の「このミステリーがすごい!」で第1位に選ばれ、「日本冒険小説協会大賞」にも選ばれ、「イギリス推理作家協会新人賞」も受賞しておられるとのこと。

しかし巻末の解説で北上次郎氏は冒頭に「この長編がボストン・テランの作品であることを忘れていただきたい」と書いておられます。

つまりそれまでとはまったく違う作風ということなんでしょうね。

私の場合、忘れるどころが初めて読む作家さんなので都合がよかったのかどうなのか。

たしかにミステリーというのとはちょっと違う気もします。

ハードボイルドでもありません。

まあジャンル分けしたところでなんの意味もないでしょう。

荒廃した街の貧困な家庭に生まれ、聾者として生きていく女性の生々しく哀しい運命の物語です。

物語の展開はイヴやその他の女性にとって冷徹です。

ですがそれだけにはっきりくっきりと女性たちの生き様が浮かび上がってくるのですね。

どっしりとした一冊でした。

ラベル:海外小説
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2012年08月26日

「この人の閾(いき)」保坂和志

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短編集です。

表題作は芥川賞受賞作。

30代後半の主人公は仕事である人物を訪ねるのですが留守にしており、時間をつぶすために同じ街に住む10年ぶりの女友達を訪ねます。

その家で草むしりをしたり学生時代の昔話をしたり家庭の話をしたり。

まあそれだけの話なんですけどね。

閾というのは「門の内と外をくぎる境目」とか「精神的な感覚の境目」とかそのような意味があるようです。

要は境目とか境界線といったことなのですが、誰しも生活においてそのようなものを持っているはず。

その人にはその人の閾があるはずです。

庭付きの家に住む専業主婦のそんな閾をこの作品は描いています。

車谷長吉がこの作品に芥川賞を取られ嫉妬し「毒にも薬にもならない」とこき下ろしましたが、まあわからないでもない。(笑)

特になにが起こるでもなくゆらゆらのんびりとした日常と会話があるだけです。

他の収録作もみんなそう。

しかしそれがなんとなくぬるま湯のようなそよ風のような、うとうとするような心地よさにも感じられるんですよね。

純文学ならではでしょうか。

ラベル:小説
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