2016年09月16日

「スコーレ No.4」宮下奈都

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田舎だと言われたらちょっとむっとするけれど、都会かと言われれば自ら否定しそうな、物腰のやわらかな町に住む津川麻子は中学生。

家は古道具屋を営んでおり、祖母と両親、ひとつ下で小学生の七葉、6つ下の紗英と暮らしています。

そんな麻子の成長を描いた4つの物語です。

スコーレというのはスクールの語源となったギリシャ語だとか。

No.1では中学校、No.2では高校、No.3では大学と就職して派遣された高級靴店、No.4では本社での勤務が描かれています。

平凡な自分と違って器量のいい七葉、学校の友人たち、職場の人たち、恋人。

いろんな場所で、いろんな人たちとの出会いの中で、少女から大人へ。

一人の女性の丁寧な成長物語です。

全編麻子の1人称で書かれているのですが、No.1の中学校時代はやはりちょっと違和感を持ちました。

子供の視線での1人称というのはどうしても無理があると私は思っています。

小学生や中学生がそんな言い回しや物の考え方をするわけないだろと。

なので就職してからのNo.3とNo.4がよかったですね。

語学を生かして輸入貿易会社に就職したものの、現場研修と称して靴屋の販売員に。

なぜ自分はこんなところにぼうっと立っているのだろうと疑問を持ちます。

ですがそれなりにやりがいを見つけ、職場を変えていったりもします。

3年後にようやく本社に戻りイタリアへ靴の買い付けに。

このあたりは真面目で不器用っぽいながらも生き生きとした描写で、麻子という人物の魅力が伝わりました。

全体的に地味ではありますが、爽やかで味わいのある小説だと思います。

ラベル:小説
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2016年09月14日

「パリジャンは味オンチ」ミツコ・ザハー

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パリに住んで40年の著者がパリジャンやパリジェンヌの本当の姿を書きます。

ケチで意地悪でわがままなパリジャンたち。

しかし憎めないのだと著者は言います。

そして美食の街で知られるはずのパリっ子たちは実は味オンチだった・・・・!?

世界中から憧れを持って観光客が訪れる花の都パリ。

ですが外から見るのと地元民として中から見るのとは大違い。

ま、これはどこでも一緒でしょうけど。

グルメについてですが、たしかに最高級のレストランの料理はまさに美食の極みでしょう。

しかし庶民の普段の食事といえば美食とは程遠く、思いのほか質素です。

日本人の普段の食事のほうがよほどごちそうです。

フランスには「ミシュラン」と並ぶレストランガイドブックで「ゴー&ミヨ」というのがありますが、その創始者であるアンリ・ゴー氏と食べ歩きの取材をしたときのことが書かれています。

鮨には驚くほどの醤油とわさびの量だし、焼き鳥のタレをごはんにかけるし・・・・とまるっきりの和食ビギナー外人だったとか。

しかも鮨好きの氏にフレッシュな本わさびと鮫皮のおろし板をプレゼントしたところ、わさびは本わさびよりもチューブ入りのほうが好きだと言ってのけたとか。

とほほ・・・・。

そういえば何年も前にテレビであるパリの3ツ星シェフを特集した番組で、料理にチューブわさびを使っているのを観たことがあります。

えっ、と思いましたけどね。

この本は特にグルメの話題に限っているわけではなく、パリジャンのあんな話こんな話を楽しく書いておられます。

もちろんそのまなざしに愛情が満ちていることはいうまでもありません。

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2016年07月26日

「コルドン・ブルーの青い空 女ひとり、ロンドン シェフ修行」宮脇樹里

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スコットランドでの大学生活もあと1年となったとき、『自分が本当にしたいことはなんだろう』と著者は進路に悩みます。

ちょっとした紆余曲折があり、夢であったロンドンの「ル・コルドン・ブルー」に入学することに。

異国でのシェフ修行が始まります・・・・。

う~ん、なんでしょう、この読後感は。

いろんな人種が集まる外国の料理学校での修業というのはもちろん大変だと思います。

苦労のエピソードもたくさん書いておられます。

でもなんだか違和感があるのは、修行の日々というよりもエピソードの羅列という印象が強いせいでしょうか。

料理修業といういちばんメインになるテーマに芯が通っていないといいますか。

ご両親がニューユークに住んでおられ(その前はロンドン)、どうやら裕福なご家庭のようです。

著者自身ももちろん外国住まいで、なので一念発起して日本からまったく言葉の通じない外国に旅立って・・・・というシチュエーションではないんですね。

学費はもちろん親持ち。

このあたりでどうも鼻白んでしまったのかもしれません。

そのような背景と著者の料理に対する情熱や行動はまったくの別物だというのはわかっているのですが。

気の強そうな文章がよけいにそう思わせたのでしょうか。

可愛げがないといいますか。

「可愛げなんて必要ないしそんなことで外国でやってられるか。大きなお世話だ」と言われれば「はい、左様でございます・・・・」としか言いようがないんですけども。

以前にやはり女性が「ル・コルドン・ブルー」に料理留学するという、タイトルもよく似た本を読みました。

そちらはパリの「ル・コルドン・ブルー」ですが。

その本は実に楽しく読めたんですけどね。

って、人それぞれ、比べてはだめだと思いつつ、しかし本であるからには読者の感想というものがついてまわるわけでして。

ラベル:グルメ本
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2016年05月09日

「はじめての恋でした」水城夕

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坂井綾子は結婚式場に勤めています。

ある日、高校時代の初恋で片思いの相手だった千葉陽介が婚約者を連れて客として訪れます。

陽介を祝福しながらも幸せに満ちた婚約者の明美を見ると切なくなる綾子。

そんな綾子に思いを寄せる同僚の上村。

悲しそうな綾子に上村は告白し、ふたりは付き合い始めます。

後日また式場を訪れた陽介と明美ですが、綾子のミスのために明美は事故で命を落としてしまうのです。

婚約者を失った陽介は綾子を恨み、自分の部屋に軟禁し一生かけて償えと激情します。

「俺の命令のみに従う奴隷になればいい」と綾子を犯すのです・・・・。

エタニティブックスには珍しく(?)、ややミステリー仕立ての内容です。

事故は実は人為的な疑いがあり、綾子を思う上村が関わっている可能性が浮上してくる流れはちょっとミステリーっぽい。

しかしその後上村は・・・・。

う~ん、まあなんとも粗いですね。

明美があっけなく死んだときはおもわず「えっ」て声を上げてしまいました。

原因がまた取って付けたようで、いくら時間があるとはいえ結婚式場が営業中に従業員みんなで清掃してるなんてあり得ませんし。

しかも手すりを磨くためのワックスをバケツに入れてたって、んなアホな。

指輪がどうのこうのというのも。

軟禁されてからの綾子の心理もちょっとなぁ。

陽介への思いといえば聞こえはいいですが、自分のそれまでの生活や上村のことなどなんにも考えず、セックスに溺れ幸せに浸っているおバカっぷり。

なのでいちおうハッピーエンドな結末ですが、あくまでそれは今だけのことで。

それだけに含みのある怖さはあります。

もうひとつ収録されている「恋がはじまるとき」は陽介の視線で書かれた中学高校時代の話。

綾子との出会いが描かれています。

なるほど、陽介と綾子の過去というだけでなく、陽介のエピソードを描いて先の話の伏線としているわけですね。

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2016年02月19日

「白蝶花」宮木あや子

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4編が収録された連作短・中編集です。

大正から平成までの女性が描かれています。

家が貧しいため芸妓として売られ、年老いたやくざの組長である吉岡の妾となった菊代。

しかし吉岡と兄弟盃を交わしている組の跡取りである黒田と関係を持ってしまいます・・・・。(天人菊)

会社を潰し家を潰し、自殺した父親に妾として売られた泉美。

旦那の息子を愛してしまい、身篭ってしまいます・・・・。(凌霄花)

奉公先で和江という気難しいお嬢様に仕える事になった千恵子。

和江の力になりたいと思う日々の中で、住み込みの書生と恋仲になります。

それがきっかけで、いっときは心を開いてくれていた和江が心を閉ざしてしまいます・・・・。(乙女椿)

最後の「雪割草」の舞台は現代。

前3編がたどり着いた“今”があります・・・・。

全体の半分以上の枚数を「乙女椿」が占めています。

この作品集のメインですね。

戦争という愚かな行為が影を落としています。

愛する男が赤い紙切れ1枚で戦地に駆り出されるのです。

自分を残して、お腹の中の子供を残して。

現在では考えられないあまりにも理不尽な時代です。

作中で千恵子は思います。

特攻隊のことをこれは神であり生死を超越しているなどとという栗原大佐に対して、そう思うのならばまずは自分が回天に乗ればいい、敵基地へ散る純白の華になればよいと。

真っ当な主張です。

くだらない幹部連中はどれだけの尊い若者たちの命を犠牲にしたのか。

どれだけの女と子供たちを不幸にしたのか。

そんな主人公(作者)の主張が聞こえてきます。

そのような時代や男尊女卑の時代を懸命に生き、男を愛した女たちの物語です。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 03:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 『み』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする