2009年09月12日

「声」柳美里

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「命」四部作第四幕。

いよいよシリーズ最終作です。

ついに東由多加氏が息を引き取りました。

病院のベッドで目を見開いたまま・・・・。

柳氏にとっていかに東氏の存在が大きかったか。

そしてそれは東氏にとっても同じだったんですね。

まさに運命的な出会いだったように思えます。

男と女としてはもちろんのこと、演出家と作家として、氏と弟子としても。

ここまでお互いを必要とした付き合いがあるのかと・・・・。

まったく壮絶な物語です。

今までの三作とは違い、構成がかなりブレていますね。

精神状態を表現するため意図しているというのもあるでしょうし、やはりその時のことを思い出すと平静ではいられないというのもあったでしょう。

東氏との回想シーンがかなり入っています。

そして本人の呆然とした言動。

告別式のシーンは脚本形式となっています。

このあたりはやはり作家としての計算だと思いますが。

そして最後のほうは日記形式。

柳氏は東氏の「声」を聞くことはできたのでしょうか・・。

ラベル:小説
posted by たろちゃん at 20:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 『ゆ』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月14日

「生」柳美里

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「命」四部作第三幕。

いよいよ東由多加氏の命が余命一週間と宣告されます。

いつ何があっても、という状態です。

しかしそんな中でも東氏はつねに柳氏の息子、丈陽君のことを考えているのですね。

子供のために絵本を作ろうと提案します。

これは後に「月へのぼったケンタロウくん」(私は未読です)として完成するのですが、この時点ではそんな状態ではありません。

そして精神的にも体力的にも限界にある柳氏の自宅にレイプ目的の男が侵入するのです。

なんとか抵抗して撃退するのですが。

東氏は病院、赤ちゃんの丈陽君は知人に預かってもらっていたので大きな被害はありませんでした。

柳氏は「ナゼワタシダケガコンナメニ!」と嘆きます。

そしてつらいラストが待っています。

東氏の死です。

その場に立ち会えなかった辛さはどれほどのものかと・・・・。

そして心の支えを失ったその悲しみと喪失感・・。

このシリーズの小説で、柳氏はほんとにすべてを曝け出して慟哭しておられますね。

たしかにかなりつらい経験をしておられると思うのですが、「ナゼワタシダケガコンナメニ!」というのはどうかと。

そう言いたいお気持ちはわかりますが、しかし他に辛い思いをしておられる方は多々おられます。

「ワタシダケ」ではありません。

これはあえて言いたいですね。

そして東氏の看病に関しても相当周りの人に恵まれておられます。

普通そんなことはなかなかないですよ。

最愛の人の死。

柳氏は作家ですのでそれをこのように小説として残すことができます。

しかし同じような、それ以上な経験をしてもこのようにドラマとして残していない人は大勢いるのです。

「ワタシダケ」ではないのです。

第四幕に続きます。

ラベル:小説
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2009年07月17日

「魂」柳美里

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「命」四部作第二幕。

東由多加氏の癌はどんどん進行していきます。

いろんな医師に相談し、はたしてどれが今の自分にふさわしいのかそれぞれの方針を検討し、あらゆる手を尽くそうと試みる柳氏と東氏。

そうこうしているうちにも東氏の容態は見る見る悪化していき、薬の影響からか幻覚症状も現れます。

生まれたばかりの子供を抱え病人を抱え、柳氏は仕事もまったくできない状態で、精神的にも体力的にもボロボロ。

どうにかこうにか周りの人たちに助けられながら生活する毎日・・・・。

物語の内容に大きな変化はないのですが、前作「命」に比べ、柳氏の動揺ぶりが大きくなっています。

もちろん東氏の病状からすれば当然のことです。

ただ育児に対しては大変なのはわかりますが、もうちょっとしっかりしませんと。

風呂に入れるのさえ怯えてパニックになっているようでは・・・・。

そしてあまりにも周りの人たちを振り回しすぎ。

といっても他人事なので平気でこんなことが言えるわけですが。

それにしてもまったくなんの連絡もよこさない子供の"父親"は最低な男ですね。

柳氏が不安を抱えていた妊娠中に「復讐しなければ精神の安定が保てないのだったらあなたの代わりにおれが復讐してもいい」、「どんなことになっても子どもが二歳になるまでは絶対に死なない。いっしょに育てる」と繰り返し言った東氏。

実の子以上に柳氏の子供を大切に考えておられる言動が何度も出てきます。

そしていよいよ東氏の命があと一週間と医師に宣告されます・・・・。

病院のベッドで「眠るのは怖い。歩こうよ」東氏は言います。

「どこに?」

柳氏の前に草一本日陰ひとつない岩だらけの風景が現れます。

太陽に灼かれながら曲がり角のない一本道を手を繋いで歩く二人・・・・。

第三幕の「生」へと続きます。

ラベル:小説
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2009年06月17日

「命」柳美里

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作家、柳美里。

今どき珍しい(?)私小説作家です。

小説では野間文芸新人賞、泉鏡花文学賞、芥川賞を受賞し、戯曲では岸田國士戯曲賞を受賞。

「石に泳ぐ魚」が最高裁で出版差し止めになったり、サイン会が右翼の脅迫により中止になったり、つねに話題になっている異端児的な作家でもあります。

そんな著者の作品の中でもこれは代表作といえるでしょう。

本作は「命」、「魂」「生」「声」からなる四部作の第一幕です。

妻子ある男性の子を身ごもったと同時に、かつて生活を共にしていた「東京キッドブラザース」の作・演出家である東由多加氏の癌が発覚します。

柳氏は子供を産むことを決意しますが、妊娠させた男性はのらりくらりと責任を回避します。

心細い中、お腹の中の子供は大きくなり、一緒に暮らし始めた東氏の病状は進んでいき・・。

迫り来る死と新たな生命の誕生。

お涙頂戴の感動小説ではなく、体にメスを入れ肉を切り開き、流れ出る血まで曝け出すような重い小説です。

ラベル:小説
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2009年04月04日

「言葉は静かに踊る」柳美里

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前半は読書日記、後半は小説に限らず他者の本に寄せた解説や新聞・文芸誌などに載せた書評です。

ファンとしては日記というのはその作者の日常を垣間見ることができるので興味深いものがあります。

読書日記ということになりますと、本好きにとってはまた一段と興味をそそられますね。

この作者の場合は海外のミステリーが多いようです。

私は外国の作家やミステリーというジャンルはあまり興味ないのですが、いずれこの本を参考に読み始めることもあるかもしれません。

後半は例えば篠山紀信の「エリローズ」という写真集の書評など圧巻です。

なるほど写真集にもここまでの物語が込められているのかと。

作家の眼や感性といったものはさすがです。

私のようにだらだらと読んでいるようでは、その本の値打ちの何分の一も理解していないのではとちょっと反省。(笑)

ラベル:書評・作家
posted by たろちゃん at 06:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 『ゆ』の著者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする