時代は寛政の頃。
上方の人気歌舞伎作者である並木五兵衛は江戸に下ることを決意します。
それに先立ち五兵衛は大道具の彩色方である彦三を江戸に送ります。
前もって江戸の様子を知るためです。
しかし彦三からの便りは届きません。
ようやく届いたのは夥しい数の版摺絵でした。
たしかに彦三の筆によるものですが、彦三にこのような版摺絵が描けたとは信じがたい五兵衛。
そして絵の脇には“東洲斎”といういかめしい雅号がありました・・・・。
タイトルからわかるように謎の絵師といわれる東洲斎写楽を取り上げています。
ですが、写楽がメインというわけではなく。
しかも本文には“トウシュウサイ”と出てくるだけで、“東洲斎”という言葉も“写楽”という言葉も出てきません。
写楽を絡ませつつ並木五兵衛の歌舞伎作者としての生き様を描き、当時の上方や江戸の芝居の世界を描いています。
個人的にはもっと写楽に重点を置いて書いてほしかったなという感想です。
並木五兵衛はこれはこれでまた写楽とは別の話で。
なのでちょっとどっちつかずな気がしましたし、期待したほど話に盛り上がりもなく感じました。
とはいうものの、さすがの松井今朝子で面白さはじゅうぶんですけどね。